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【aria二次】その、希望への路は

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6.行ってはいけない所



 曲がりくねった下町の水路に、町工場はあっという間に見えなくなった。普段と違うゴンドラのふるまいにも、どうにか操船の要領がつかめてきた時に、エアバイクのドライバーが声を掛けてきた。
「もうそろそろ、付いてなくてもいいでしょう。こっちは、一足先に発電所に向かっときます」
 返事どころでは無さそうなアイの様子を見て取った電力公社の担当者が、代わりに返事を返す。
「分かりました! お願いします」
「ロープを放すので、ゴンドラの真上に入ります」
 ゴンドラの運航に直接関わることなので、こればかりは代わりに返事してもらうわけにはいかない。アイは自分で応えた。
「はい、了解です」
 そんなやりとりを聞いていたアリア社長は、木枠の上から、ぽよん という音を立ててゴンドラの床にでんぐり落ちる。その直後、アクセルを絞り、普段のエンジン音だけを響かせるエアバイクが、すっ とゴンドラの直上に進んできて、ロープを放した。

 木枠の上にぱらぱらと音を立ててロープが落ちる。ロープが完全に切り離されたことを見届けると、エアバイクは高度を取りながら離れていった。エアバイクが飛び去ったのを見たアリア社長は、またぞろ木枠の上に、よじよじとよじ登る。
 慣れない操船に、相変わらず四苦八苦していたアイは、ふと気付いた。重い荷物を積んでいるせいか、ゴンドラの上でアリア社長が暴れても余計な揺れは生じない。普段なら、こまめに気をつける必要がある小さな波にも、ゴンドラはどっしりと揺れずにいた。
「細かい揺れの心配はせずに、前に進むことにだけ集中すればいいんだ」

 アイは、ゴンドラのバランスに必要以上に気を使うことをやめ、ゴンドラに推力を与えることに専念した。その直後、舳先に乗っている電力公社の担当者は、自分にあたる風の変化に気が付いた。アイの操るゴンドラは、迷いを捨てたかのように、力強く進み始める。
 ゴンドラは着実に前進を続け、やがて前方の視界が大きく開いた。幅の広い運河との交差点。交通量の多い場所なので整理のために警官が常駐している場所だった。アイは、オールに加える力を落とし、ゴンドラを徐々に減速させる。
 担当者はすかさず、重量物搬送中の合図である、赤い小旗を振ってみせた。交通整理の警官はすばやく周囲を見回すと、運河の通行を停止させ、アイに渡るように促した。

 木枠を積んだゴンドラを間近に見た警官は、一瞬、不良整備艇かと目を剥いた。ゴンドラの沈み込みが大きく、乾舷(船体の水面上に出ている部分)が異常に低いからだ。しかし、れっきとした電力公社の社員が乗っていることと、何より、ゴンドラを漕ぐアイの生真面目な態度に、自分の判断を改めた。どうやら、とても重い荷物を積んでるらしいな、あのゴンドラ。
 しかし、沈み込みが激しい割には、意外なほど安定してゴンドラは進んでいく。ちょっと息が上がっているが、それでも、すれ違う時に会釈を送ってきたアイに、敬礼を返しながら警官は思った。
「ほぅ、なかなかの漕ぎ手だな、ありゃあ」

 やがて、行き止まりのように見える、背の高い水門の前までやってきた。水門守りの老人と担当者が交わす言葉に耳を澄ます。どうやら、ちょっとの間待たなければならないようだ。それを聞いた途端、アイは大きなため息を付きながらしゃがみ込んだ。ちょっとぐらい待たされても、休憩が取れるのなら大歓迎。アリア社長がどこからともなく扇子を取り出して、ぱたぱたと仰いでへたり込むアイを労う。
 だけど、しばしの休憩時間は情け容赦なく過ぎ去り、しずしずと水門が開いた。指示に従ってゴンドラを進めると、水門守りの老人の声が響いた。
「閉めるぞぉ!」
 事情の掴めてないアイの返事を待たずに、再び水門が閉じ始めた。落ち着いて考えてみれば、開いた門が再び閉じたからといって、あわてる道理はない。だが、閉じる巨大な門を内側から見るのは、とても不安だった。門が閉じたかと思うと、今度は注水が始まる。響き渡る大きな音や、滝のように流れ込む水にも心細さを感じる。

 だが、電力公社の担当者は、驚きもせずに平然としていた。
「水しぶきがかかるので、ちょっと後ろにずらして下さい」
 指示に従い、狭い水上エレベータの中で位置を調節する。そして、水位が上がり、前方の水門が開かれたとき、目の前には高架水路が伸びる風景が広がっていた。
「うっわーっ! すっごーい」
 アイが思わず歓声をあげる。地面から高く浮き上がった高架水路は、まるで空を飛んでいるかのよう。通り過ぎる風すらも心地よく感じる。そんなアイに、電力公社の担当者は、無邪気に自慢そうな態度で語った。
「どうです、大したモンでしょう」
「はい、すごいです、すごすぎですっ」
「高架水路に乗れば、あとはもうちょっとです。一気に発電所まで行っちゃってください」
「はいっ!」

 自分ではゴンドラを漕がない電力公社の人は知る由も無かったが、高架水路は相当な難所だった。幅の制限された水路では、すれ違うのが難しい。地上の水路なら、ごく自然に消えていく対向船の起こした波が、いつまでも壁に反射してゴンドラを揺らす。
 船にも壁にも、なんとかぶつからずに操船していたアイだったが、しばらく進むうちにくじけそうになっていた。ペア(見習い)が、一人で勝手に入り込んではいけない、というのは、けっして理由の無い規則じゃなかったんだ。と、後悔し始めた頃、前方に自分と同じ方向に進む、オレンジぷらねっとのプリマが操るゴンドラが見えた。
「わぁ、こんな狭い水路で、あんなに大勢のお客さまを乗せてる」
 アイは、感心するより先に、驚き、呆れた。やっぱり、プリマって凄いんだ。

 対向船が来ないうちに、少しでも距離を稼いでおこうと速度を上げたアイは、さらに前方から、大きな自航艀(パージ)が下ってくるのを見た。
 げ。あんな幅の広い船と、どうやってすれ違ったらいいんだろう? どこか、水路幅の広い場所を見つけて、停まってやりすごそうか?
 うろたえている間にも、先行するオレンジぷらねっとのゴンドラは、艀にどんどん接近している。