漢字一文字の旅 第一巻(第1編より第18編)
一の六 【湯】
【湯】、それはかって、町の銭湯ののれんに大きく書かれてあった。
それをくぐり、番台でお金を払い、脱衣所へ。そして引き戸を引き、ワンワンと声が響く浴場へと入る。
すると、そこには美保の松原の絶景があった。
時代の流れとともに、そんな町の銭湯は衰退し、【湯】という字を目にすることが少なくなった。
しかし、たまに目にした時、不思議にほんわかとした気分になってくる。
日本人は風呂好きで、九割の人が三八〜四二度の湯を好む。
だが、もう少し仔細(しさい)に分類すると、リラックスするためには三八度と低めが良い。
肩こり解消には四一度らしい。そして、朝起きてシャキットするには四二度が一番。
それに比べ、お茶の温度は玉露が五〇度、煎茶は七〇度、そして番茶は熱湯と幅広い。
そして同じ【湯】でも、焼酎お湯割り。絶対に六〇度と頑固一徹の輩(やから)がいる。
また、燗酒が一番美味しいのは人肌。しかも温(ぬる)めの燗が良い。
人肌であり、かつ温めって…、三五度くらいのことだろうか?
愛人でもいれば、確認できて、デレッと嬉しいのだが。
そんな妄想に、今夜は四二度のシャワーで…喝!
作品名:漢字一文字の旅 第一巻(第1編より第18編) 作家名:鮎風 遊