小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

漢字一文字の旅  第一巻(第1編より第18編)

INDEX|61ページ/131ページ|

次のページ前のページ
 

九の二  【雨】


【雨】、天から「あめ」が降る形の字。

そんな【雨】、少し科学的に解釈すれば、空から落ちてくる直径0.5ミリメートル以上、大きなものは直径3ミリメートルの水滴のこと。
それより小さい雨滴のことを、「霧雨(きりさめ)」と言う。
【雨】は平らな饅頭の形状をして、毎秒9メートルの速さで落下してくる。

そんな【雨】、必ず降る日がある。
それは曾我兄弟が討たれた陰暦の五月二十八日。
十郎祐成(じゆうろうすけなり)には契った遊女の虎御前(とらごぜん)がいた。その彼女が流す涙で、「虎が雨」(とらがあめ)と呼ばれている。
そして時代を経て、さらに情が入れば【雨】は詩となる。

雨はふるふる 城ヶ島の磯に
利休鼠(りきゆうねずみ)の 雨がふる
雨は真珠か 夜明けの霧か
それともわたしの 忍び泣き

北原白秋は城ヶ島の雨でこう詠った。
この中にある「利休鼠の雨」、それは抹茶のような緑色を帯びた鼠色。

イメージからすると暗い感じがするが、
「利休鼠は早緑(さみどり)の上に降る雨で、決して暗い鼠色ではない」と、後日、北原白秋は説明を加えている。
そんな風情一杯の【雨】が、初夏に降る。