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漢字一文字の旅  第一巻(第1編より第18編)

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三の六  【情】


【情】、その字は「心」と「青」から成る。
「青」は草木が茂る色であり、元々の有様のことを言うらしい。したがって、【情】は人の心にある元の有様のことだとか。

だが、こんな【情】に、強い対抗馬が存在する。
それは…「愛」だ。

こんな【情】と「愛」、どこがどう違うのだろうか?
侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を生むところだ。

一般的には、心の向かって行く方向が違うと言われている。
「愛」は、好きだからこそ相手を解放して上げたい、そんな許す気持ちになって行くのが基本だそうだ。
一方【情】は、相手を縛っておきたい、また導きたいという独占の方向だとか。

なぜかいつまでも別れずにいるカップル。女は時として切れる。そして…、
「あなたへの情はあるけど、愛はない」
こんな捨てゼリフを吐くものだ。
要は心根からの、独占だけはしておきたいという【情】の発露、そうではないかと思えてくる。

一方、男の方も実に身勝手で、フランスの詩人、アンリ・ド・レニエは言う。
「男がもっとも情を込めて愛している女は、必ずしも一番愛したいと思っている女ではない」と。
これはきっと、男にとって実務的、いや便利な、そんな女の方に、「愛」以上の【情】を抱くものなのかも知れない。 
そして、一番愛したい女より、手放せないものだと言いたいのだろう。

そんな【情】、それはまさに「愛」を凌駕(りようが)するほど強いものなのだ。