開けたら閉めろ
これまであまりその悪癖に強く抗議することはなかった。しかし、今回ばかりは許せん。俺はマヨラーなのだ。マヨネーズは酸化に弱いんだぞ。風味を損なうような事態が起きたらどうしてくれる。生来の几帳面さも相まって怒りは頂点に達していた。
「おいコラァ!!」
口を開けたまま寝ていた彼女をたたき起こす。口も開けたら閉めろ。
「お前、マヨネーズのフタ開けっ放しにしたろ。あと冷蔵庫の扉もちゃんと閉まってなかった!」
彼女はなんともウザそうに目をこすり、むくり、と起き上がった。
「はぁ~?」
心底どうでもよさそうな返答。頭にくる。
「俺いつも! 開けたら閉めろって! いってるよね!?」
そんなどうでもいいことで私の睡眠を邪魔したのか、そう食って掛かってくる彼女。お伝えできないほどの罵詈雑言の応酬が始まった。
男の脳ミソは口論中でも別のことを考えられるように出来ている。ああ、こいつともオシマイなのか、とか。思えば結構長い付き合いだったな、とか。そんな事を考えているうちに、破局が訪れた。
つい、手が出てしまっていた。
「もう出てく!」
という声に、
「おう、出てけや!」
と、売り言葉に買い言葉を実行してしまい、俺たちの1年半の同棲生活にピリオドが打たれた。
玄関から バンッ という大きな音がして、彼女は出ていった。
どれくらい時間が経ったろうか。実のところ結構ショックだった。結構長い付き合いだったんだ。まだ俺は未練がましく寝室で佇んでいた。しばらくして、彼女を追うようにノロノロと玄関まで歩いて行くと、玄関が開けっ放しになっていた。
「開けたら閉めろよ……」