電波の向こう
(語り部:山本賢太郎(やまもと・けんたろう))
電話って怖いよな。特に携帯電話。俺は未だにそう思う。
いや、仕組みは知ってるしわかってんだけどさ。でも、知り合いによく似た声が、線でさえ繋がってさえいない、無機質な不燃物の塊から聞こえてくるんだぞ。普通怖いと思わないか? しかもこっちの都合なんかお構いなしに呼び出されるしさ。
全然姿が見えないのに声だけが届いてくる現象、なんでみんな平気なんだろうな……やっぱ一回とんでもない目にあったせいかもな。俺はそれからもう駄目なんだ。
ある日、携帯に電話がかかってきた。
でも非通知でかかってくる電話なんかろくなもんじゃないからしばらく無視していたのだが、何度切れてもすぐかけ直してくる。しつこいな、一度怒鳴ってブチ切ってやろうかと思い携帯電話を開くと、聞こえてきたのは友人の山田の声だった。
『やあ、元気か? 暇だから電話してみたぞ』
奴が電話してくるなんて珍しいから、俺はちょっと懐かしくなってな。俺もちょうど手が空いてたから、暇つぶしに付き合ってやることにしたんだ。
彼は電話の向こうで仕事やら趣味のことやらペラペラとしゃべっている。いつもの通り、嫌味は無いが妙に自身満満の声と独自の喋り方だ。それは確かに友人の山田だった。その時までは、そう思っていた。
でも玄関のインター音が聞こえ、
「あ、悪い、客」
電話の向こうの弁解しながらドアを開けた時……俺は思わず目を疑ったよ。
山田がいたんだ。携帯電話を持っていない山田がな! 玄関に立っている友人は笑って、
「やあ久しぶりだな。どうしたんだい、そんな阿呆面さげて?」
同時に電話の向こうの山田は、誰だったんだい? とか言ってやがる。
なんだ、なにが起きているんだ? どっちが本物なのか全然分からなくて、俺はまず、電話の通話口を手で覆って玄関の山田に聞いた。
「お前はハインツ・B・山田本人か?」
「何を言ってるんだ、寝惚けて出てきたのか?」
また笑った自信家の友人を無視して、次に、電話の向こうの山田(仮)に聞いた。
「お前はハインツ・B・山田本人か?」
するとどうだ、電話の向こうの奴は楽しそうに笑いはじめた。
機械を通してつぶしたような、男なのか女なのかも分からないような声だった。しかも、複数の声でこう言った。
イ
マ
ゴ
ロ
キ
ヅ
イ
タ
ノ
カ
ほぼ反射的に携帯を地面に叩き付けると、携帯は嫌な音を立てて壊れた。
玄関の山田がなんとも奇妙な顔をしていたが、俺はそれをフォローする気力はなかった。
電話って怖いよな。特に携帯電話。俺は未だにそう思う。
いや、仕組みは知ってるしわかってんだけどさ。でも、知り合いによく似た声が、線でさえ繋がってさえいない、無機質な不燃物の塊から聞こえてくるんだぞ。普通怖いと思わないか? しかもこっちの都合なんかお構いなしに呼び出されるしさ。
全然姿が見えないのに声だけが届いてくる現象、なんでみんな平気なんだろうな……やっぱ一回とんでもない目にあったせいかもな。俺はそれからもう駄目なんだ。
ある日、携帯に電話がかかってきた。
でも非通知でかかってくる電話なんかろくなもんじゃないからしばらく無視していたのだが、何度切れてもすぐかけ直してくる。しつこいな、一度怒鳴ってブチ切ってやろうかと思い携帯電話を開くと、聞こえてきたのは友人の山田の声だった。
『やあ、元気か? 暇だから電話してみたぞ』
奴が電話してくるなんて珍しいから、俺はちょっと懐かしくなってな。俺もちょうど手が空いてたから、暇つぶしに付き合ってやることにしたんだ。
彼は電話の向こうで仕事やら趣味のことやらペラペラとしゃべっている。いつもの通り、嫌味は無いが妙に自身満満の声と独自の喋り方だ。それは確かに友人の山田だった。その時までは、そう思っていた。
でも玄関のインター音が聞こえ、
「あ、悪い、客」
電話の向こうの弁解しながらドアを開けた時……俺は思わず目を疑ったよ。
山田がいたんだ。携帯電話を持っていない山田がな! 玄関に立っている友人は笑って、
「やあ久しぶりだな。どうしたんだい、そんな阿呆面さげて?」
同時に電話の向こうの山田は、誰だったんだい? とか言ってやがる。
なんだ、なにが起きているんだ? どっちが本物なのか全然分からなくて、俺はまず、電話の通話口を手で覆って玄関の山田に聞いた。
「お前はハインツ・B・山田本人か?」
「何を言ってるんだ、寝惚けて出てきたのか?」
また笑った自信家の友人を無視して、次に、電話の向こうの山田(仮)に聞いた。
「お前はハインツ・B・山田本人か?」
するとどうだ、電話の向こうの奴は楽しそうに笑いはじめた。
機械を通してつぶしたような、男なのか女なのかも分からないような声だった。しかも、複数の声でこう言った。
イ
マ
ゴ
ロ
キ
ヅ
イ
タ
ノ
カ
ほぼ反射的に携帯を地面に叩き付けると、携帯は嫌な音を立てて壊れた。
玄関の山田がなんとも奇妙な顔をしていたが、俺はそれをフォローする気力はなかった。