小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ツカノアラシ@万恒河沙
ツカノアラシ@万恒河沙
novelistID. 1469
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

くるくるりんくる

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 

「だから、あたくしを無視しないで、と言っているでしょう。なぁんて人達かしら、ワタクシのような美貌の才媛を絵に描いたような美人を無視するなんて、あなたがた何か間遵っていますわ」
愛沢恵嬢は、見ている方が思わず拍手をしたくなるくらい力いっぱい断言した。それにしても、随分まどろっこしい台詞である。
「じゃあ、どうして欲しいんです」
「もちろん、私のことを褒めて」
「……あのさ、アタシの思い違いじゃなきゃいいんだけど。あんた、家の中に他が棲んでいて困っていると言うんじゃなかったっけ」「もちろん、そうですわ…ああっっ」
愛沢恵嬢は、叫ぶと荷物を持って部屋から出ていった。どうやら、また鷹法少女リリカルメグムちゃんに変身、もとい変装しに行ったらしい。本当に、忙しいお人である。よく彼は、普通の会社員なぞしてられるものである。彼の周囲の人たちはとても心が広いに違いない。
「魔法少女リリカルメグムちゃん再び登場」
再び、砂糖菓子のような恰好をしたリリカルメグムちゃんが登場した。リリカルメグムちゃんは、あくまで本人は可愛いいと思っているらしいポーズを決める。そして、今度は男の愛沢恵には戻らずに彼女はこう言った。
「探偵さん。実は、私も相談があるの」
リリカルメグムちゃんは、にっこりと笑った。それは、それは何かを含んでいるような不気味な笑いだった。
「実は、人を殺して欲しいの」
リリカルメグムちゃんは、語尾にハートマークを付けて小首を傾げ可愛らしく、無邪気そうに言った。それにしても、恐ろしいことを簡単に言うものである。
「誰をですか」
玲は驚いてもないらしい、それは他の面々にも言えた。しかし、ここで一人だけ反抗した人間がいる。もちろん、神田川一生警部である。
「人殺しの依頼なんぞ、何を考えているんだ」
神田川はリリカルメグムちゃんに掴みかかっていった。リリカルメグムちゃんは、本人は黄色いと思っているらしい野太い悲鳴を挙げて逃げ回り始めた。やはり、魔法は使えないらしい。
「警部さんを何処かに閉じ込めておいて」
玲が扇で神田川を指さして、あっさりと言う。そして、その台詞を執事がこれまたあっさりと実行した。どちらもとんでもない主従である。
「おいこらっ、小悪魔っ。普通、探偵に人殺しの依頼なんかするもんかっっ。巽ちゃん、俺を何処に閉じ込めておくつもりだっっ。誰かたぁすけてぇ。俺は、そんなところに行きたくないよー」
虚しい神田川の悲鳴だけが、書斎の中に響いた。無論、神田川を助けようとした者は誰もいなかった。哀れなりけり、神田川。いったい、彼はどこへ連れていかれたのだろうか。永遠の謎だった。
数日後。名状し難い酷い目に会いながらも懲りもせず、神田川は清廉潔白探偵事務所に来ていた。これだから、彼は学習能力がないと言われてしまうのである。ま、そこが彼の良いところかもしれない。
「それから、どうしたんだ」
今日も三時のお茶会をしながら、神田川は尋ねる。自分が去った後、ここで何か起こったのか知りたかった。それにしても、神田川の性質に好奇心が強いが備わっているのは何かの因果か。
「ええ、殺しましたよ」
玲はくすくすと笑いながら返事をする。あっさりと殺したと言うところがそら恐ろしい。
「誰を?」
「普通の会社員愛沢恵氏と美人OL愛沢恵嬢です」
玲の台詞に神田川は首を捻る。毎度のことではあるが、彼には何か何だか皆目つかなかった。これで、神田川が皆目つくようになってしまったら、つまらないのも確かである。
「どういうことかなぁ、それは」
「自分らしく、生きたかったらしいですよ、彼女は。それで、僕に殺人の依頼をなさったわけです」
どうやって、普通の会社員愛沢恵氏と美人OL愛沢恵嬢を殺したのだろうか?謎である。
「もちろん、それは東洋の謎と神秘に決まってるじゃないですか」
玲と執事がこちらを見ながらにっこり笑って、ユニゾンで答える。神田川は、二人のその行動に目を白黒させただけだった。いいんだ、いぢけてやる。
「自分らしく?あれが、自分らしいのか」
神田川はいまいち、納得がいかなかった。
「そうみたいですよ、警部さん。良いじゃないですか、面白くて」
そりゃあ、面白いだろう。できれば、一度お会いしてみたいくらいである。
「迷惑なような気がするけどなぁ。な、巽ちゃん」
「発言は控えさせて頂きます」
巽はつれない。神田川は巽の唇に貼り付いている薄い笑みを見て、がっくりと肩を落とす。所詮、この執事に同意を求めた神田川が間違っていた。
「それで、愛沢さんは?」
「ええ、これからは自称魔法少女リリカルメグムちゃんとして生きていくそうです」
やはり、これからリリカルメグムちゃんは魔女の女王候補の魔法少女と対決したり、アイドル歌手になったり、はたまた謎の天才手品師にでもなるのだろうか。
「それは、何か間違っている。いや、間違っていないとは言わせないぞ」
神田川は、明日に向かって吠えた。と、その時。窓の下の方に、ひらひらとしたピンクの服の端が街角を過って行ったような気がした。
くるくるりんくる。くるくるりんくる。
くるくるりんくる。くるくるりんくる。
今日もどこかで、リリカルメグムちゃんは魔法少女として活躍しているかもしれない。それにしても、春満開である。