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新宮紗弥香
新宮紗弥香
novelistID. 31525
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世界でいちばん分からないもの

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自分って、世の中で一番わからないもの。
だから、手に入らないって気づいた瞬間に傷つく。
もっと早く気づいていれば、なにか変っていたのかな?

「はい、これ使って」
「え、ああ、サンキュ」
昔から、困っている人はほっとけなかった。
だから今日も、ひとつ良い事をした。

四月、私――椿木伊織(つばきいおり)――は中学校に入学した。
入学式を終え、教室に入って、先生から生徒手帳を貰った。
これから始まる中学生ライフに、私の胸は大きく弾んだ。
そんなある日、授業中に隣の列から「いっ……!!」という声がした。
隣の列を見てみると、男の子が指をおさえていた。
どうやら、もらったプリントで指を切ったらしい。
私は、セーラー服のポッケに手をつっこんで、絆創膏を取り出した。
「はい、これ使って」
ほんの少し微笑んで、絆創膏を彼に渡した。
「え、あ、ああ、サンキュ」
そう言うと彼は、絆創膏を受け取った。

最初は、それだけだった。
だけどそれだけじゃ終わらなかった。
絆創膏を渡して三日経った日の事。
「ねぇ、伊織」
突然、友達の蛍坂郁恵(けいさかいくえ)に話しかけられた。
「さっき返ってきた音楽のテスト。何点だったか山本に聞きにいかない?」
山本とは、私と郁恵が通っていた小学校の同級生、山本大希(やまもとだいき)のこと。
ちょっとお馬鹿なのが特徴だったりする。
「ん〜……、別にいいけど」
「よし、じゃあいこーう!」
「いくって……すぐ後ろじゃん」
「細かいことは気にしないっ!山本ーーー」
郁恵が後ろにいったので、私も後ろにいった。
するとそこには、山本と一緒に郁恵の話を聞いている人がいた。
「あ、指切った人」
「あ、絆創膏の……」

これが、室田秋久(むろたあきひさ)と私の出会いだった。

それから、なんやかんやで私と郁恵、山本と室田の仲良しグループはできた。
たまに、そのグループの中に友達が入ってきたりして、盛大なパーティーみたいになったりもした。
そうしているうちに、私の心の中にある感情が芽生え始めた。
でも私は、それに気付かなかった。
いや、気づいてたんだけど「ないない、ありえない」って笑い飛ばした。

だけど、二年生になったある日。
私は放課後の教室で、驚愕の事実を知った。
「伊織、私ね隠してる事があるんだ……」
「隠してること……?」
「うん、室田関連の事なんだけどね……」
「もしかして……付き合ってるとか?」
軽い冗談のつもりでいったから、私の顔は笑っていた。
「なっ……んでそうなるかなぁ……!!」
「ちがうの?」
軽い…冗談で言ったんだけど……。
「ううん、そうだよ。もう……二、三ヶ月になるなぁ」
「えっ…」
私の顔から、笑みが消えた。
すごくびっくりした。
それと同時に、すごくつらくて、苦しくなった。
「う、うそぉ!!?」
だから、それが嘘であってほしいと願った。
嘘だと思いたかった。
だけど……。
「なんでうそつく必要があるのよ、ホントだよ。嘘じゃない」
「あ……、あはは。そっか〜、そ〜だよね。そんな嘘つく理由ないもんね〜?」
嘘なんかじゃなかった。
でも、そんな苦しさがばれちゃわないように、必死だった。
「へ〜……あの郁恵が、室田と、ねぇ〜?」
「な、なによ〜」
「ねぇ、どこ好きになったの?」
とにかく必死だった。
「んと……、一緒にいてておもしろいとこと、優しいとこ、かなぁ」
「ふ〜ん……、そっかー。……じゃあじゃあ、いつから好きになったの!?」
「えっ……と、去年の十月くらい」
「へぇ〜……。じゃっ、じゃあ告白は!?どっちからしたの?」
「え、ええっ!……もうっ!いい加減にしろー!はいっ!質問タイムはここまで!」
質問攻めにしていたら、郁恵が恥ずかしくなって怒った。
そんな郁恵は、あたりまえだけどわたしよりかわいくて、室田が好きになる理由もわかった。
「郁恵かーわい〜、でも、まだ二つしか聞いてないんだけどなぁ〜?」
「あーもうっ!終わりったら終わりなの!!」
そう言うと郁恵は、自分の席にいってカバンを取った。
「それじゃ、あたし部活いくけど、伊織は気をつけて帰ってね」
「わかった。それじゃあ明日ねー」
「うん、明日ね」
その後、郁恵の姿が見えなくなると、わたしは自分の席に座った。
「郁恵が、室田と……ねぇ……」
わたしは、机の上に伏せた。
この複雑な気持ちってなんだろう。
郁恵と室田が結ばれたのはいいことで、別にお祝いしたくない訳ではない。
だけどやっぱり……。
「わたし、室田の事好きなんだぁ……」
そっか、あの気持ちは正しかったんだ。
室田の事、好きだったんだ。
「あーあ……、やっちゃった……」
今更、遅すぎる。
目尻が熱くなって、机の上に雫が落ちた。

次の日、郁恵たちといつも通りに過ごしていた。
そんなとき、郁恵が急に言い出した。
「ねぇ、この世で最も分からないものって、何だかわかる?」
「え、わかんない」
「それはね、一番分かっていそうなもの、なんだよ」
「へぇ〜、例えば?」
「例えば……」
郁恵は一呼吸置いて、言った。

「自分とかね」


例え、この気持ちが届かなくても。
傍にいる、それだけで辛くても。

今が楽しいと、そう思えるようになりたい。