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なみだ

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タクシー日誌 なみだ



 午後十一時過ぎだった。私は東横線が人身事故で止まったとラジオで聞き、亡くなったかたに対して申し訳ない気持ちだが、中目黒駅へ向かった。ところが、ずっと手前で若い男性のお客様をのせて、環状8号の近くの武蔵新田の方へ行った。
急いで中目黒に戻ると、駅の近くの道路に髪の長い、若い女性が居た。
「わたし韓国から来ました。中目黒から六本木へ行きたいです。でも、千円しかありません」
アクセントは外国人らしいけれど、よく解る日本語だった。ほっそりとした身体の女性だ。
「どうぞ、乗ってください。韓国の人は大歓迎です」
 二十歳くらいで、かなり可愛い女性だと、私は思った。
だが、若い女性だからということではない。福岡から就職のために東京に初めて来たという若い男を、品川から渋谷まで乗せたときも、かなりの値引きをしてやったことがある。
 不足分は自腹で会社に払うのだ。ばかげているかも知れない。しかし、困っている人は助けたい。それだけのことである。
東京にもいい人がいるんですね。驚きました。そう云って青年は泣いた。
「たくさん、断られました。本当にいいですか?」
「ちゃんと行ってあげます。どうぞ」
「わたし、日本語下手です。日本が好きで自分だけで日本語、勉強しました。来てから二週間です。明後日帰ります」
「学校で習ったのかと思いました。上手ですよ」
「本当ですか?嬉しいです。六本木まで歩くとどのくらいですか?」
「一時間じゃあ着かないでしょう。はやくてもプラス30分くらいかも知れません」
 裏道を走り、最短距離を心がけた。
 十五分で六本木に着いた。メーターに表示された金額は、1970円だった。
「ありがとうございます。本当に千円でいいですか?」
「はい。それで結構です」
「いい人ですね。すごく、嬉しいです。ありがとうございます。本当に、ありがとう」
 振り向くと、彼女も泣いていた。更に何度もお礼のことばを重ね、涙が止まらない感じだった。私も、釣られて泣きそうな気持になった。
 千円を受け取り、970円は私が会社に払うのだが、それは云いたくない。日本は良い国だと思ってもらえたら、私も嬉しいと思う。
 韓国の女性が去ってすぐ、真面目そうな若い男が乗車した。神奈川県の渋沢までだという。料金は二万円を超えるだろうと、私は思った。
作品名:なみだ 作家名:マナーモード