使い道?
「バカ?」
細身のレザーを身に纏う少年を前に、こちらは白い羽の中性的な子供が構えた剣の切っ先を向ける。
「無礼者め。我々には最高の栄誉なんだぞ」
幼い高音に似合わない古風な言葉遣いに対する少年は肩を竦めた。
「リカイフノー。ヤッパリ違う生き物だネ」
言い合う間に打ち振られた剣をナックルで受ける。あっさりと止められるそれに、白い方は悔しげに顔をゆがめた。
「だいたい、何故お前はいつもなれなれしく話しかけては私を小馬鹿にするようなことばかり言うんだ。私は天使でお前は悪魔なんだぞ」
再びたたきつけられた刃を殴っては横に避け、黒い方は小首を傾げてみせた。
「あーそれは、バカな子ほどカワイイから?」
「なんだと!?」
「てユーカ、カラカイ甲斐あるカラ?」
「貴様っ!!」
激昂のままに激しくなる剣戟の音がしばし続き。
「あぁーもう! めんどくさあい! かんがえるのやあめた! ボーナス全部つぎ込んで新作バッグ買い揃える!!」
二人の足の下でずっと唸っていた女性が、悪魔の誘惑に身を投げた。
「……あ」
「オッシ」
怒りの解けた天使が呆然とそれを見下ろし、満足げな悪魔がニヤリと笑って拳を引いた。
「イエー。コッチの勝ち」
「……お前と担当区域が重なってから、私の成績は落ちた」
子供ががくりと肩を落としてハイヒールをかつかつ鳴らして去るOLの後ろ姿を見送った。一時休戦と近くの花壇の縁に並んで腰掛ける。
「……お前たちにも報酬制度はあるのか?」
「ンー? オレタチは人間からいただく分から歩合制? そーいや貯まってきたし、交換しよッカナー」
「のんきなものだ」
ふてくされる天使の白い腕に走る赤い線に目をやり、悪魔は自分の同じ部位を指さして笑った。
「聖痕の代わりにタトゥーでも彫ろっかナー。似合うかナ?」
「……私に聞くな。飾りではなく栄誉だと言っているだろう」
ちらりと少年の日に焼けた腕に視線を向け、子供は眉間に皺を寄せて深く息を吐いた。二つの種族が解りあえる日は遠いらしい。
(了)