小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

新世界

INDEX|85ページ/154ページ|

次のページ前のページ
 

 この身体の重だるさは、何度となく経験している。私は発熱してしまったのだろう。怪我を負ったせいもあるのかもしれない。左肩の疼くような痛みは消えていたが、左腕の感覚が殆ど無かった。
「ベック中佐。ダムラー准将に連絡を取れるか?」
「はい。それは可能ですが……」
「ダムラー准将に連絡をいれて、ヴァロワ大将閣下から指示を仰ぎたいと伝えてくれ」
「大佐。しかし宰相閣下の件はフォン・シェリング長官が直接指示すると……」
「その辺りの事情は私がどうにかする。一刻も早くヴァロワ大将閣下に連絡を取ってくれ」
 憲兵達の言葉が強弱を伴って、聞こえて来る。意識が朦朧としているのだろう。彼等の話から察するに、ヴァロワ卿が言っていた通り、指揮権は完全にフォン・シェリング大将に移っているようだった。
 熱のせいか、息苦しい――。



「閣下」
 次に眼を覚ました時には、私は車の中に居なかった。白い天井が見え、側には憲兵ではなく海軍部のコールマン少将が控えていた。具合は如何ですか、と私に問い掛けてくる。
「此処は……?」
「メディナの病院です。閣下の御容態が思わしくないと報告を受けて、ヴァロワ大将閣下が急遽此方の病院を手配しました」
「ヴァロワ卿が……」
「……本当はヴァロワ大将閣下が此方にいらっしゃる予定でしたが、陛下の許可が頂けず……。代わりに私が参りました。閣下の容態が落ち着いたら、専用機で宮殿にお連れするよう陛下から命令を受けています」
 皇帝は、ヴァロワ卿が私を逃がしてしまうのではないかと危惧したのだろう。それでヴァロワ卿に許可を出さなかった。その代わり、ヴァロワ卿は私もよく知っているコールマン少将を此方に寄越したのだろう。コールマン少将は元々、ロイの部下で、ロイと親しくしていた。
「済まない。迷惑をかけた」
「いいえ。大事に至らず幸いでした」
 扉をノックする音が聞こえて、視線を其方に遣ると白衣を纏った医師が現れた。診察が行われる間、コールマン少将は少し離れた場所で控えていた。監視するよう皇帝に命じられているのだろう。多分、この部屋の外でも厳しく監視されているに違いない。
 医師は一通りの診察を終えると、まだ長距離の移動は無理だということを私とコールマン少将に伝えた。もう少し回復するまで出発を控えるよう、コールマン少将に告げる。コールマン少将は解ったと応えた。
「……出来るだけ早く帝都に戻りたい」
 私がそう告げると、コールマン少将は私を見返し、医師はそのお身体では無理です、と眉を顰めて言った。
「明日、出発させてくれ。具合も大分落ち着いているから大丈夫だ」
 医師は眉根を寄せたが、明日の容態を診察してからにしましょうと、一応は私の意見を飲んでくれた。
 私は早く帝都に戻り、皇帝と話をしなくてはならなかった。最後の最後で食い止められるように――。
「ヴァロワ大将閣下に連絡をいれてきます。その間、ボレル大佐が此方に控えますので、御了承下さい」
「ああ……。ヴァロワ卿に迷惑をかけたと伝えておいてくれ」
「了解しました。閣下はもう少しお休みになっていて下さい」
 コールマン少将が部屋を出るのと同時に、憲兵達のなかで大佐と呼ばれていた男が入室する。彼は私に敬礼して、歩み寄った。
「ご挨拶が遅れましたが、小官はマリオン・ボレル大佐であります。私の部下が閣下に失礼を働きました」
「……捕虜を殺害しろと命令を下していたのはフォン・シェリング大将か」
「はっ」
「そうか……。君にも迷惑をかけた」
 早く帝都に戻らなくてはならない。フォン・シェリング大将は作戦案が決まり次第、出兵するつもりだ。何とかそれを止めなくては――。
 せめて、この国で私が出来るだけのことを――。


作品名:新世界 作家名:常磐