小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

新世界

INDEX|154ページ/154ページ|

前のページ
 

 アラン・ヴィーコは昨年、アクィナス刑務所を仮釈放されてから、裁判で無罪を勝ち取った。ルディから彼は無実だと聞いており、また彼から直接聞いた話からもそれが明白だったことから、裁判費用や弁護士手配の一切を支援した。その縁があって、その後も何度か彼と会う機会があった。アクィナス刑務所での実にルディらしい一面も、彼から聞くことが出来た。
 そのアラン・ヴィーコは、無罪判決が出た日、政治家を志すことを告げに来た。
『ルディにどれだけ先見の明があったかは俺自身もよく知っているし、その才覚は到底俺が及ぶものではないことは解っている。だがルディの志を継ぎたい』
 では出来る限り此方も支援する――そう言ったら、彼は首を横に振って、こう言った。
『裁判でも随分世話になった。だからこれ以上甘える訳にはいかない。俺はこれから暫く、政治の勉強をする。それから選挙に出るつもりだ。その時、俺の公約が納得するものであったら、応援してほしい』
 来月の選挙は既に多数の候補者が名乗りを挙げている。激戦となるのは必須だが、巷の噂によると、アラン・ヴィーコの名は広まっているようだった。
「そうか……。彼が……」
 縁とは面白いものだな――とアンドリオティス長官は言って、そう言えばと別の話を切り出した。
「ロートリンゲン家が所有していた土地を新政府に寄附したと聞いた。会議施設のようなものを作ると聞いているが……」
「ああ、あれはルディの所有していたものです」
「ルディの……?」
「亡き父が、私がロートリンゲン家を継ぐ代わりに、ルディに宮殿近くのアークパークの土地を購入してそれを譲り渡したのです。其処に建てる屋敷の費用も一緒に。ルディは戦争が終わったら静かな場所で暮らすと言っていたので、おそらくあそこは政府に寄附するつもりだったのでしょう。だから寄附したまでのことです」
 アークパークの土地は宮殿から程近いところにある。各省の吏員や議員達が使用するのに便利が良いだろう。ルディの遺志を考慮し、フリッツやパトリックとも話し合った結果、施設の建設資金と共に土地を政府に寄附した。少しでもルディの遺したものをこの国のために役立ててほしかった。そうすれば――。
「そうだったのか……。ルディはきっと、喜んでいるだろうな」
 そう言い当てたアンドリオティス長官に微笑み返す。アンドリオティス長官は、夕方の列車で共和国に戻るらしく、少し街を見てから帰ると言って去っていった。

 風がさわさわと花を揺らす。耳を澄ましていると、まだ先程の選挙宣伝の車の声が聞こえてくる。

 この国は大きく変わった。
 変化への犠牲はあまりに大きかった。戦争での戦死者は数万人に上った。しかし、民間人への被害は無く、また戦争の規模を考えれば戦死者数は少ないほどで、それはヴァロワ卿の尽力あったのことだった。
 そして、この国の変わるきっかけを作ったのは、ルディだった。
「ルディの望んでいた世界か……」
 悲しいことだが――。
 だが、望みだけは叶ったかもしれない。
 ルディの望んでいた世界が漸く幕を開けた。
 なあ、ルディ――?
作品名:新世界 作家名:常磐