新世界
「帝国に戻るつもりは無いと、この戦争の前にも断言していまして……。彼は今、私と共に生活しています。私はビザンツ王国で偶然にも彼を見つけまして、アジア連邦への亡命を促しました。……事情は全て彼自身から聞いています」
「そうでしたか……。行方が知れず案じていましたが、まさかアジア連邦に居るとは思わず……」
「せめて家には連絡をいれるよう促したこともあります。しかし彼はもう戻るつもりはないとの一点張りで……。このたびの戦列には加わりたいと言うから、同行してもらいましたが、彼にとっては元同胞と戦うことになる。それはあまりに道徳に反していると思い、戦闘には直接参加させていません」
フェイ次官とこんな風に話すのは初めてだったが、そう悪い人間でも無いのかもしれないと思った。尤も胸の内に何を秘めているかはまだ解らないが――。
「ご配慮に感謝します」
「貴卿とは親しかったと聞いています。もしかしたら貴卿の話なら耳を傾けるかも……」
その時、ハインリヒが居ると言っていたテントの幕が開いた。
書類を手に持ち其処から現れたのは、ハインリヒだった。強い風が吹いた。それにより乱れた髪をすっとかき上げる。その仕草は、確かにハインリヒだった。
最後に顔を合わせてから、半年――否、それ以上の月日が流れていた。
ハインリヒ、と声を掛けるより先に、眼が合った。
ハインリヒは立ち止まり、眼を見開いて、此方を見つめていた。