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新世界

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「私は君と同じぐらいだと思っていたが……。33歳だ」
「33?だったら俺と同い年だ。もっと若く……俺の弟が25歳なのだが、それぐらいかと思っていた」
「それはまた随分若く見られたものだが。しかし奇遇だな。私も弟が一人居る」
 運ばれてくる料理に舌鼓をうちながら、レオンとの会話を楽しんだ。得体の知れない男ではあるが、何だか憎めない。レオンとはそういう男だった。
「帝国にはいつまで滞在する予定だ?」
「明後日の朝に帰国する。ルディはまだ此処に?」
「ああ。私は来週帰宅する。もし時間があれば、明日もまたこんな風に話が出来るだろうか?今日は楽しかった」
「勿論。俺も誘おうかと考えていたところだ。明日、五時頃良いかな?」
 レオンと別れる頃にはすっかり暗くなっていた。来た道を戻りながら、レオンの発言ひとつひとつを考えてみる。レオンの発想は歴史的に見ればそう珍しいものでもないのに、今の自分にはとても斬新なものに思えた。巷では進歩派と言われていても、知らず知らずのうちに私の身体には帝国の思想や教育が染み込んでいるということだろう。
「お帰りなさいませ」
 帰宅するとミクラス夫人が出迎えてくれた。どなたかとお会いなさっていたのですかと興味津々に尋ねて来る夫人に頷いて有意義な時間を過ごした旨を話すと、夫人はその御様子ですと女性ではないようですね、と少々落胆気味に告げる。
「ですが……、いつになく清々としたお顔をしてらっしゃいます」
「そうか?」
 珍しく気分が高揚していた。立場に縛られることなく自由に発言するのは久々のことだったからだろう。
 そして翌日もレオンに会い、語り合った。結局最後までお互いに素性を明かさなかった。だからこそ私は自由に発言出来たのかもしれない。携帯電話の番号を教え合い、またいつか会おうと言って別れた。
 新トルコ王国とは隣国とはいえかなり遠い国だが、本当にまた会いたいものだった。理想を追求して良いのではないかと言い放ったレオンの言葉は、いつまでも私の中に残っていた。


作品名:新世界 作家名:常磐