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特別な存在、そのあとで

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 四十六億年の時を経て、私の身から生まれた盟友、月が消滅した。
 この広大な、またいくつもある宇宙の中では、このように突然仲間が消えることは珍しいことではない。

 それとともに、長らく私の身の上に生存していた動植物と言われるものの殆どは死滅。私の寿命の折り返し地点で、このようなことになってしまうとは、とうとう私の本当の姿を見せることなく尽き果ててしまう生命。

 私の表面に溜まった化石を取り尽くすことなく死滅してしまった人間たち。私にとっては垢のようなものなので、何の価値ももたないものだが、何故か有限のものだと思い込んで必死にかき集めていたようだった。
 地球の滅亡などと人類は囃し立てたが、私は滅亡してはいない。ただ、人類が滅亡しただけである。人類の中では、人類の滅亡は私の滅亡だったのであろう。

 今となっては、この灼熱の空気の中、僅かながらの微生物が仮死状態で蠢くのみ。
 だが、いずれ、新たな生命が芽吹くのであろう。

 私の身の上の生命よりも、盟友である月が居なくなった事のほうが、重大であった。月は私にとって、友であると同時に限りなく引き合う存在であった。彼女が生まれたことは、私にとって限りない幸運であったのだ。

 この希有な存在を、私の身の上に存じていた生き物たちはそれほど顧みることはなかった。月こそが私の本当の姿に近い存在であったのに。


 ただ、人類が私を観察するために引き合わせた人工衛星だけが、今も私を見つめている。
 それは、月に代わる存在ではないが、忘れ形見のようなものだろう。
作品名:特別な存在、そのあとで 作家名:志木