眠れる森の
お茶を入れたカップを手に部屋に戻ると、ソファの上で寝息を立てていた。
切れ長な目はしっかり閉じられ、いつもはあまり意識しない睫毛がはっきり見える。
「そんなに疲れてるなら自分の部屋に帰ればいいのに」
そう呟いてはみたが、そんなに疲れているのにここに来てくれた事が嬉しかった。
明日は休みらしい。
テーブルにカップを置く。
「お茶冷めますよー」
一応小さい声で呼びかけてみるが、起きる気配はない。
テレビからはスポーツニュースが流れている。ボリュームを下げる。
ベッドに運ぶのは私の力では不可能だろう。毛布持って来ようかな。
来るって言うからせっかくビール冷やしておいたんだけれどなぁ。
おつまみもすぐ作れるように準備していたんだけれどなぁ。
そう思いながら、ソファから落ちた片手にそっと触れた。
すると突然その手に力が入った。
「えっ?!」
思わず叫ぶと、寝顔のまま口元がにやりとして、ゆっくりと目が開いた。
「起きてたの?」
「ううん、寝てた…夢の中で、手、繋いでた。お前と」
「え?」
「…もう俺も若い子でもないのに、何か嬉しくてぎゅっと握ったら、ホントに手が繋がってた」
「嬉しかった?」
冗談で訊いたつもりだったのにあなたは
「うん」
と嬉しそうに笑って答えた。
「…子供みたい」
「でも子供じゃないから…今夜は離さない」