最後の夏
青山はバットを出す。
ブン
聞こえたのは快音ではなく、バットが振れる音だった。
青山は空振り三振。ゲームセットだった。
「うぅ、うぅ、すまん。みんな。」
ベンチに戻る青山の目からは水が滴り落ちる。
ベンチのみんなの顔はぬれていた。
試合後、青山はヒロシに向けて言った。
「ヒロシ、俺が前に言った。ことばの意味はわかったか?」
「いいえ、まだです。」
「そうか。なら、お前は次のチームのキャプテンだ。」
「え?」
突然のとことに混乱する。
「キャプテンはお前だ。チームを頼んだぞ。」
青山は短くそう言うと、消えていった。
大会は終わった。
ヒロシはその日何となく家に帰る気分になれず、駅前を歩いていた。
「キャプテン、どういうつもりなんだろ。」
ひとり言のようにつぶやくと、遠くに見慣れたカバンを持った男がいた。
「あれは、キャプテン??」
話しかけようと近づくと、青山は誰かと話をしていた。
その男は頭は坊主で、色つきのサングラス。立派な体格をしていた。
「キャプテン、あんな危ない感じの人と知り合いだなんて・・・。」
心の中で呟いた。
その時だった。
青山はその男から封筒を受け取った。
そしてその封筒の中身を取り出し、枚数を数えていた。
中身は福沢諭吉が印刷された紙だった。
「キャ、キャプテン?」
岬はわけが分からず思わず話しかけてしまった。
「だれだ、お前は?」
男がすごみのある声で言った。
「あぁ、こいつは俺の学校の後輩だ。」
青山が答えた。
「キャプテン、そのおかねは何ですか。何のお金なんですか!」
「これか?これはな、おれの報酬だ。今日の決勝戦裏ではものすごい金額が動いているんだ。なんとな、俺たちダークホースが優勝するってかけたやつの方が多いんだぜ。だから俺は、あの試合わざと負けた。そしたら俺に金はいるからな。もし塔海の方がオッズが低ければ俺は最終回にホームランを打ったぜ。」
「こんなことをして、キャプテンは野球が好きなんじゃないんですか。」
「大好きさ。なんて言ったって大金が舞い込んでくるからな。野球をする理由なんて金に決まってるだろ。」
「そんな。本気で甲子園行こうって言ってたじゃないすか!!」
「あれは、お前らの士気を上げる為だ。お前らがあまりにザコくちゃ、一回戦で負けて金が入らなくなるだろ。」
「そんな。」
「俺は言っただろ。あの言葉の意味が分かってないんだったら、次のキャプテンはお前だって。あの意味を教えてやるよ。俺は自分のために野球をしたことはない。全部金のためだ。金を稼ぐために野球やってるんだよ。
金のために野球するキャプテンなんて、俺だけで十分だよ。」
「キャプテン・・・。」
「ヒロシ、お前に聞かれたのは残念だったよ。お前の事気に入ってたんだけどな。これ見られちゃったら、生きて返すわけにはいかないよな・・・。」
青山が岬を殴る。
岬は地面に倒れ、薄れゆく意識のなかかすかに見えたのは悲しそうな顔をする青山だった。
その後岬は一度も目を覚まさなかった。
最後の夏 (終)