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日記

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『朝倉君は大人な考え方の出来る人だと思います。話しているだけで成長できそうな、尊敬できる人です。』
『今日は熱を出して学校を休んでしまったのですが、朝倉君がメールをくれました。本当に心配してくれているようで、嬉しかったです。』

 それに、私のことも。

『もしかしたらなのだけれど、咲ちゃんは朝倉君が好きなのではないでしょうか。彼女も沢山の人と話しているけど、女の子の特別は何となく分かる。私もそうだったから。』
『今日、咲ちゃんと翔君が話しているのを聞いてしまいました。朝倉君のことが好きだ、と。盗み聞きするつもりはなかったのだけれど、どうしてもその場から離れられなかった。どうしよう。』

 春休みの頃からは、毎回のように私のことも書かれていた。
 朝倉先輩は積極的だったようで、その存在が香奈先輩の中で大きくなっていったのが手に取るように分かる。
 香奈先輩が朝倉先輩を意識すればするほど、近くにいる私のことが気になっていたようだ。朝倉先輩への気持ちと私への気持ち。その葛藤がページ一杯に綴られていた。
 最後の日付は、二日前。

『朝倉君に告白されたこと。今日咲ちゃんに話しました。笑顔で聞いてくれていたけど、絶対に悲しい思いをさせてしまった。見て見ぬ振りをするなんて、最低だと思う、どうすればいいのでしょう…』

 残りのページは完全に白紙。
 私は小さく息を吐いて、ノートを閉じた。香奈先輩は全部知ってたんだ。知っていて、それで悩んで、私にこれを託したんだ。
 先輩を苦しめていた申し訳なさが胸に広がって、涙が止まらなかった。

 その夜は、一人で一杯考えた。私は今まで自分のことしか考えてなかった。先輩がこんなにも私を気にしてくれていたってこと知らなかった。
 誰もが辛い思いをして、それでも必死に生きているんだってことを初めて知った。
 そんな自分が情けなかった。でも、それと同時に、何故かほっとした。

「翔!おはよう!」
 その次の朝、駅で彼の後ろ姿を見つけ、思い切り背中を叩いた。
「中島?おはよ……昨日とは打って変わって元気だな」
「うん。私ね、色々な事が分かった気がするの。だから、もう完全復活。前以上に明るく元気な中島咲になるね」
 笑顔でハイテンションな私を見て、翔は開いた口が塞がらなかったようだけれど、直ぐに、ニヤリと笑った。
「何があったかは分からないけど、ま、それでこそ中島だな」
 私には、支えてくれる友達が居る。
 それから、その日の部活終わり。外で朝倉先輩を見つけたので、駆け寄った。
「朝倉先輩、お疲れさまです」
「あぁ、中島も」
 相変わらず格好良い。でも、今の私は昨日とは違う。
 精一杯笑いかける。
「先輩、幸せになって下さいね」
「ああ……ありがと」
 はにかむ先輩を前に、私は勝手に清々しい気持ちになった。
 そうして帰り道。
 さらさらのロングヘアーに華奢な身体。彼女の後ろ姿を捕らえて、走り寄った。
「香奈先輩」
「咲ちゃん…」
 先輩の表情が強ばったのが一目で分かる。
 私は、鞄からノートを取り出すと先輩に差し出した。
「ありがとうございました」
 香奈先輩は震える手でそれを受け取り、力が抜けたように表情を和らげた。
 視線を落として、小さな声を出す。
「ごめんなさい」
「何も言わないで下さい。昨日全部読みましたから」
 そこで、一回深呼吸をする。
「一杯考えました。言いたいこともあります。でも、どれも私には言える事じゃなくて。――だから、これだけ言います」
 真っ直ぐに、彼女の目を捕らえる。
「ありがとうございました」
「うん……うん――」
 先輩はその瞳に涙を浮かべて、とても優しく笑ってくれた。
作品名:日記 作家名:アオ