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親友ごっこのその代償

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「部長がなんといおうと、僕は演劇部をやめてやるさ」

最近発売したばかりの奇妙な味のする炭酸水を飲み干した真一郎は豪語した。
ようやく173センチに突入した真一郎は最近強気だ。
きっと背ばかりが理由ではないにしろ、口を開けば演劇部をやめてやる、と豪語しているのだ。
今日は木曜日だけれど、今週に入ってから、4回は聞いた言葉だ。

「それで?今度は何の役に抜擢されたんだい?」

やめられるはずのないものを、やめてやる、と自信満々に言い続ける真一郎は馬鹿なのか、阿呆なのか、はたまた。
その馬鹿さが愛らしいと話題になっていることも少なからず。

「聞いておくれよ!僕はもう173センチもあるっていうのに、部長も他のやつらも僕をロザーリア役にしたがるんだ!」

それは災難だね、とうなずいてやると、そうだろう、と真一郎は男らしくその場にあぐらをかいた。どうやらこれから愚痴をいう気力はあれど、授業に行こうという気概はないようだ。
いよいよ逃げ出せない空気になって、俺は授業に出ることを諦め、真一郎の近くに腰を下ろす。
こうなっては致し方ない。

「ここは男子校なんだ!それを考慮して劇を選ばないといけないと思うわないか?女がいない環境で無理に女のいる劇を選ぶからこういうことになるのさ」
「でも、反対しているのは君だけなんだろう?」
「…………」
「なあ、真一郎、考えてみておくれよ、君が演劇をやめられると思うのかい?この学校は外出禁止だから外に習いにも行けないんだよ」

飲み終わって中身が空になった炭酸水のボトルがころころと屋上の端まで転がっていくのを眺めて、真一郎はいじけたように、わかってるよ、とつぶやく。
とても不本意そうな声音になんだか真一郎が可愛く思えて、クラスメートたちが彼を構う理由がよくわかった。
今まで僕は真一郎のことを友人として好意を抱いていはいたけれど、そういう異性を見るような目で彼を見たことがなかった。
だからこそ真一郎は僕とこうしてつるんでいるのだと思う。
だからつまり。
この想いは決して表に出してはいけないのだ。
真一郎の安息のためにも、彼の心の平穏の為にも。

「わかっているよ、僕はお前のことを信頼しているから、なるべく努力はしたいと思っているんだ」
「なら、わかっているだろ、真一郎。あと1年と半年の我慢さ。そうすれば君は劇団に入って夢への輝かしい道を歩めるんだよ。それもその修行のうちさ」

なにより、俺が勝ち取っている彼の信頼が壊れるのが怖かった。
この想いは受け入れられることのない想いだと俺は知っている。
真一郎は獣のような男が怖いのだ。だからクラスメートたちは決して表に出さず、弟をかわいがるように真一郎を構い、他のクラスの輩からよく守っている。
それもこれも去年卒業していった先輩たちが、真一郎に心の傷をつけたばっかりに。

「…お前にそう言われちゃな…。じゃあ今回の舞台だけ、女役に徹することにするよ」
「ああ、舞台、楽しみにしているよ」



親友ごっこのその代償(真一郎の笑顔か)(俺の想いか)
作品名:親友ごっこのその代償 作家名:葦口