艶やかな遠吠え
細い腕を男の裸体に巻き付け、押し倒した形で覆いかぶさっていた。
熱い息を漏らしながら喉に舌を這わせ、鎖骨を甘く噛んだが男はそれに応えようとしない。2人の体の間にはぬめやかな液体が糸を引いていた。
「もう……終わったの?」
少女は赤い唇を男の耳元に近づけて囁いた。男の肢体はだらりと伸び、さっきまで荒々しかった呼吸も今はやんでいた。
「ねえ、聞こえてる?」
男は返事をしなかった。黒く潤んだその瞳を見て、少女はニコリと笑った。
「ステキだった……とってもよかった」
少女は身体を起こして辺りを見回した。
2人がいるのは山林の斜面にある木立の中だった。木々の狭間の柔らかい草の上で、共に体を横たえていた。ここは男の別荘の敷地内で他人が来る心配はない。
「小川があるのね……」
せせらぎの音を耳にした少女は、男から体を離して立ち上がった。裸足の足で、一糸纏わぬ姿のままで斜面を降りていった。そして岸辺にたどり着き、水の流れに手を入れた。
「気持ちいい」
夜の空気は冷たかったが、少女はためらうことなく川底に足を踏み入れた。腰を落として川の水に心地よさそうに体を浸す。そしてバシャバシャと顔を洗い、自分の胸や肩にも水をかけて汚れを落とした。
少女が再び立ち上がると、その濡れた肌が月に照らされ、闇に白く浮かび上がった。
* * *
先ほどの場所に戻った少女は、脱ぎ捨てていた自分の服を身に着けて男を見下ろした。
黒く潤んだ男の瞳には、もう何も映っていない。喉笛に深い傷が刻まれ、腹は裂かれ腸が引きずり出された無残な姿だった。
「大丈夫……残りも全部きれいに食べてくれるから。アタシの仲間がね」
少女はそう言って微笑み、歪んだ形で固まった唇に最後のキスを落とした。今日初めて会った少女を車で別荘に連れ込んで、服を脱がせてこの草むらに横たえるまで……ずっといやらしい笑みをたたえていた男の唇に。
「アナタに会えてよかった。とってもステキな味だったわ」
そして少女は月を見上げ、艶やかな遠吠えを暗い山々に木霊させた。