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てっしゅう
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「深淵」 最上の愛 第一章

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「深淵」 最上の愛 第一章 事件の始まり

「近づくと、こいつを殺すぞ。離れろ・・・解らないのか!本気だぞ!」
「翔太くん、止めて・・・私はおとなしくするから。みんな、心配しないで、ちゃんと話して自首させるから」
「誰が自首なんかするものか!最後はお前を殺して俺も死ぬ」
「警視正!大丈夫ですか?戸村!いい加減にしろ。もう逃げられないぞ。話をしよう、落ち着いて・・・まずは警視正に向けている銃を離せ。条件はなんだ、言ってみろ」

事件の重要参考人戸村翔太33歳は自宅アパートに大阪府警警視正早川絵美33歳を人質にとって立てこもっていた。


2010年3月、春休みの観光客で賑っていた大阪城で外国人の死体が見つかった。府警の調べでイラン国籍と見られる外国人は麻薬の売人をしていたことが調べで解った。
聞き込みによる調査が何日も続いていた。今月から新しく府警に転勤となった早川絵美警視正にとって就任直後の事件となった。
「警視正、なかなか手ががりが見つかりませんわ。外人やさかいに、ちょっと厄介でんな」
「及川警部、現場の担当は誰なの?」
「はい、森岡警部補ですが、なにか?」
「ここに呼んで頂戴」
「今すぐでっか?」
「重要な取調べをしてなければ、直ぐよ」
「はい、連絡してみます」
及川は森岡の携帯に連絡をした。

「森岡か?警視正がお呼びやで。どこにおるんや?」
「警部、もう一度現場を当たり直ししてますねん。何の用やろ・・・直ぐ戻りますわ」
「そうしてんか。なんか話あるみたいやから」

早川絵美は東大卒のバリバリのキャリア組みで、30歳にして警視正になっていた。今の警視監が前任者の定年退職に伴い昇級した欠員を埋める形で東京から転勤した。次の転勤では女性としては珍しく警視監になるだろうとの噂が広まっていた。それほど、ただのキャリアではなく、能力を認められていた。
部下はノンキャリアからの及川順平警部。大阪生まれ大阪育ちの頑固者だったが、勘は鋭かった。その下に今回の事件で配属された森岡耕作警部補がいた。奈良県出身の近畿大学柔道部出身の身体を見込まれて、府警の中でも数少ない指定暴力団担当になっていた。

「警視正も出掛ける前に言うてくれたらええのに・・・せっかく足運んだのに無駄になったわ」そうぼやきながら森岡は車のキーを回して回転灯を屋根につけ、猛スピードで署に引き返した。受付の上村巡査長は顔を見るなり、
「二階の会議室でお待ちです。及川警部もご一緒です」そう森岡に声を掛けた。

「ありがとう」そういった後傍によって小声で囁いた。
「可愛いで・・・」

内勤の上村朋子は森岡に憧れていた。180センチの立派な体格に柔道で鍛えた足腰が誰よりも頼もしく感じられたからだ。森岡はそれを知ってかどうか解らなかったが、署内の誰よりも仲良くしている女性であった。

「森岡警部補、入ります!」
すでにホワイトボードの前に椅子を持ち出して、絵美は及川と何か話していた。
「森岡くん、こっちに来て」
「はい、遅れまして申し訳ございません」
「いいのよ、現場に行っていたのでしょう?感心だわ。ここに座って」
「ありがとうございます」

一つだけ年上の女性上司というような気楽な関係ではない。エリート街道を進んできたバリバリのキャリアの警視正は軍隊で言う将校であり、口の利き方一つで身分を危うくするほど権力者なのである。もちろんなるべく言葉は標準語にしていた。

「今、警部(及川)には話したけど、容疑者の絞込みが出来ていないわよね?」
「はい、仰るとおりです」
「そこでね、今日からピンポイントに絞りながら捜査を始めようと思うの」
「ピンポイントですか?それはどのようなことでしょう?」
「まず、被害者の元締めに見当はつく?」
「薬の元締めって言うことですね。この辺やったら、総元は山中組なんでしょうが、現場が殺害場所だと推定すれば、周辺に絞って・・・一樹会(いちきかい)辺りと思われます」
「ふ〜ん、詳しいのね。一樹会って言うのは、どの程度なの?」

指定暴力団担当の森岡は山中組の幹部とも面識があった。一樹会とも組長が娘婿という関係だったから、顔は知っていた。

「一樹会の組長は山中の娘婿なんです。その関係で、大阪の北半分を任されている実力者です。名前は・・・小野田何とか言いよりましたけど、すみません苗字しか記憶しておりません」
「いいのよ。その一樹会が経営している風俗店を調べて欲しいの」

絵美はあることにピンと来たのだった。

「風俗店ですか・・・ぎょうさんありますから難しいですね。一樹会の声がかかっているところですね。若いもんに聞いて調べて見ます」
「そうして。そこで働いているシャブ中の女に最近顔見せなくなった仲間がいるかどうか探って欲しいの」
「警視正はどうして女だと思いはるんですか?」
「勘なの・・・警部もそう感じていたようだから、結構いけるかもしれないわ。直ぐに当たって頂戴」

さっと昼ごはんを済ませて、及川と二人で梅田にある一樹会の事務所を訪ねた。

「小野田はん居てはるか?府警の森岡や、わかるやろ?」
玄関のインターホーンに向かってそう話した。
「組長は留守してまっせ。どんな用事で来やはったんですか?」
「教えて欲しいことがあるんや。中に入れてくれや」
「今行きます」

応接間に通されて、二人は数人の組員と向かい合わせになっていた。

「変なこと聞くけどな、この辺りのどの店で稼いでんねん?風俗や」
「取り調べでっか?言えまへんで」
「ちゃうねん。手入せえへんから教えてくれ。どことどこや?」
「ほんまでっか?ほな、何を調べてますねん」
「捜査上の秘密や、言われへん。けどな、教えてくれへんかったら、署員総動員して全部調べて違反しているところは締め上げるで、それでもええか?重要な事件なんや」
「適わんなあ・・・この頃森岡はんえらい勢いやさかいに、困ってますねん。言いますよってに、今後はお手柔らかにたのんまっせ」

組員は奥からなにやらノートみたいなものを取り出して、名前を書き出していた。
「これだけです。ほんまに女の子連れて行けへんと約束してもらえますか?」
「ああ、ええで。話し聞くだけや」
「良かったら、サービスさせましょうか?ただでよろしおまっさかいに」
「アホ言え、職務中にそんなことしたら、クビになるわ」
「森岡さんやったら、家で歓迎しますわ。即幹部でっせ」
「そのときは頼むわ。ほんなら行くから」

渡されたメモには5件の風俗店の名前が書いてあった。
「警視正、聞き出しましたので、これから向かいます」
「そう、お手柄ね。期待しているわ」

森岡はちょっと嬉しくなった。早川絵美のことが身分は違えど、いい女だと初めて見た時から思っていたからだ。

森岡と及川は手分けして店を当たった。十三(じゅうそう=歓楽街のある街)にある最初の店に着いた。入り口で男が呼び込みをしていた。

「お兄さん、ええ男やね。女の子サービスしまっせ、どないですか?これ渡してくれたら入泉料割引になりまっせ」男はカードを差し出した。
「客引きはあかんで!今日は引っ張れへんけど、もう止めとき」
「刑事さんでっか?・・・すんません」