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プティ ムシュ4

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      プティ ムシュ









   4


 まず私が驚いたこと(気になったこと)は彼女の反応が冷静であったことだ。今まで散々オーバーリアクションをしていたのに、ここにきて何故?開き直っていたという考え方もないわけではないが、その冷静さはある種の不自然さを有していた。そして私がこの時この冷静さについてもっと注意を払っていれば、あるいは別の結末もあったのかもしれない……。
「誰も探してんなんかいないわ。強いて言えばあなたかしら。いつから気づいていたの?」
冷静さを保ったまま少女は言ったがその質問に私は答える気はなかった。質問を投げかけたいのは私の方なのだ。
「何故つけて来たね?」
「質問しているのはアタシの方よ。」
これまた少女の方も私の質問に答える気はないらしい。話が長くなりそうな予感はしたが望むところだ私も時間ならたっぷりある。

 我々は今、国道から脇に一本入った簡素な喫茶店の中にいた。中年と中学生の取り合わせというのは奇妙なものだ。親子にしては年が近いし、兄妹にしては遠すぎる。おそらく端から見れば援助交際以外のなにものでもないだろう。そういうこともあり、国道から一本入ったヘンピな喫茶店にしたのだ。マスターの爺さんが怪訝な表情を一瞬だけ浮かべたが全てを飲み込んだかのようにその後の対応は極普通のものであった。さすが年の功というヤツだろうか、それともよほど商売熱心なのだろうか。
「さて、早速本題にはいるけど……」
と私が言いかけたところにその女子中学生がかぶせて言ってくる。
「ところでおじさん独身?」
「独身だ。」
『おじさん』という単語には少し抵抗を感じたが、定番のやり取りをするきには馴れなかった。というより、ここで冷静さを失ったら相手の思うつぼだと感じたからだ。
「君は……」
言いかけてまたかぶせてくる。
「君っていうのやめてくれないかなぁ。」
私は深いため息をついた。
「お嬢さんは……」
「それもいや。」
私はもう一度深くため息をついた。
「じゃあ、なんて呼べばいい。」
その女子中学生は中空を見上げて少し考え込んでいるようだが、実はこれも演技で最初から本名を名乗る気など全く無く、偽名も既に決まっていたのだ。
「そうね、ノワール……。」
突っ込みどころは満載だったがあえてスルーすることにした。
「じゃあ、ノワール……」
言いかけたがノワールはかぶせてくる。
「おじさんの名前も考えなくちゃね。なにがいい?そうね、私がノワールだから……プリュイなんてどうかしら?」
どうかしらも何も最悪の響きだったが、おじさんと呼ばれるよりなんぼかましであったし反論したところで聞く耳を持つとも思えなかったのでそのまま話を続けることにした。
「なぜノワールは私を着けていたんだ?」
何か間抜けな感じがした。
「プリュイは独身なんだっけ?」
そうだ、この女が私の問いかけに答えるわけが無かった。もうどうにでもなれ。私はため息を一つ吐いてから言ってやった。
「独身で一般人、工場勤務の会社員だよ。」
「へえ。なんか見た目ぱっとしないもんね。」
余計なお世話だと怒鳴りたかったがそんな気力は無かった。
「ノワールは学校はどうした?さぼりは良くないぞ。それとも友達が居ないか?」
大人気が無いくらい憎まれ口いっぱいで言ってやった。
「今日は開校記念日で休みなのよ。ねえ、飲み物頼んでもいい?喉渇いちゃった。」
私はアイスコーヒーとグレープのジュースを頼んだ。開校記念日というのは嘘だろう。とっさにしては美味いことを言うと思ったがそれを問い質す気にはならなかった。

 それからも私の質問は幾度となく無視され、ノワールは意味のない事やとりとめのない事を一方的に話し続けた。で、結局気がつけば、私が電車で妙な男を尾行していたいきさつなどを話していたわけだった。

「それは面白そうね!」
ノワールは瞳を輝かせそう言う。
「私も協力するからその妙な小さいオッサンの正体を突き止めましょうよ!」
正体という言葉に何か引っかかるモノを感じずにはいられなかったが、意外な成り行きで現れたこの協力者を不覚にも私は少し頼もしく思ってしまった。
ノワールの提案はこうだった。学校の行き帰りの電車で、その珍妙な男に注意を払い、目撃すれば私の携帯に連絡を入れるという。それから可能な範囲でその珍妙な男の後をつけるというものだった。
「まぁ、そんなところでどうかしら?それから、小さいオッサンだから、プティムシュでどう?」


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作品名:プティ ムシュ4 作家名:橙家