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Open the door

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3章 ショップの中では大人しくしてくれ



「ほらこの店だよ」
ハリーはドラコを誘うように指で入り口を指し示して、そのまま店内へと入っていく。
不可解そうな表情を隠しもしないままあとに続いたドラコは、壁一面に取り付けられたドアノブに驚き、
「……すごい数だな」
と呟き、その数の多さに圧倒され半ば呆れたような声を漏らした。

羽の形をした緩やかなカーブを描いている物、金色に輝いている円形の丸っこい取っ手、横から下へと下ろすタイプのものや、逆に縦のノブを横へと引き上げて回すものまで、ありとあらゆるたくさんのそれが整然と壁にディスプレーされて並んでいた。
ドラコは珍しさも相まって、ひとつひとつを丁寧に観察するように見詰めて、壁に沿って移動していく。
「なに、実はキミ、ドアノブマニアなの?ものすごくマイナーな趣味だなぁ」
などと、手近にあったソファーにどっかりと座りつつ、軽い調子で話しかけた。

相手の馴れ馴れしさに、いつもなら眉間にシワを寄せて睨みつけたかもしれないが、今は目の前のドアノブに釘付けでドラコもそれどころではないらしい。
「いや、別にそんなことはないけど……」
問いかけられたため無意識に答えながら、視線を上下左右に忙しく動かしていた。

「だったら、君ん家は立派な豪邸だから、ドアノブばかりか玄関のドアごと盗まれたとか?!」
今度は隣の白いレザーのソファーに移動しつつ、派手に笑いながらハリーは相手を茶化す。
ドラコはノブのひとつひとつを吟味するのを一旦止めると、呆れた顔で振り返った。
「君のジョークはしょっぱいな。笑いのポイントが低すぎだ」
皮肉を込めて腕を組み、チクリと釘を刺す。
「ちがうよ。僕は笑い上戸なだけだ」
ハリーはソファーの上で首を振り、肩をすくめた。

そのついでのように、ポンとまた跳ねるように隣のソファーに移動する。
今度はその上で腰を浮かしたり落としたりして、何度もジャンピングを始めた。
「おいおい勘弁してくれよ。君のジョークはガキみたいだと思ったけれど、実際に子どもみたいな態度までするな。いい大人がトランポリンのまねごとか?恥ずかしいヤツだな」
「えーっ、ふざけているように見える?これでも一応、ソファーを選んでいるつもりなんだけな」
そう言いながらもソファーの上でのバウンドは止まらない。

「ああ……、これはイマイチだなぁ。バネがへたりすぎ。次に移ろう」
また隣のソファーへと移動し、からだを動かして同じことをやり始めた。
ドラコは顔をしかめ、ハリーの側へ近づき、あごに手をやり口元を隠すようにしながら、そっと小声で囁く。
「それは止めたほうがいいぞ。ここにあるのはみんなアンティークのソファーばかりで、結構な値段だ。あまりはしゃぎすぎて壊したら大変な金額を払うことになるぞ」
ひそひそとした声で注意を促した。
「けど、ソファーといったら座り心地が一番大切なことじゃないか。ひとつひとつ座って確かめないと―――」
すぐに立ち上がるとまた、次のソファーへと移動する。

「そんなことしなくても形が気に入ればそれでいいだろ。ソファーのスプリングなんか、取り変えたらいいだけだから。布地も気にいらないときも、業者に頼んで同じ様に張り替えてもらったらいい」
「あー、それはダメダメ。せっかくソファー全体が気に入ったものを選ぶのに、それに手を入れるなんて言語道断だよ」
「はぁー、全く分かっちゃいないね、マルフォイは」などと、余計な一言を加えつつ次々とソファーを移動していく。

何台もまるで車に試乗するように乗り換えたあと、あるひとつのソファーが気に入ったらしい。
相手はその上でまた性懲りもなくジャンプしてバネの具合を確かめて、横のひじあてに手を置いたり、背もたれにふんぞり返るように深く座り込んだりを繰り返した。

そうしてソファーに座ったまま、ふいに腕を伸ばすと、いきなりドラコの手を強く引っ張った。
「わっ!ちょっとまて!」
相手の突然の行動に予想もしてなかったドラコは、バランスを崩してハリーの隣へと前のめりに倒れそうになる。
このままでは背もたれに勢いよく顔をぶつけそうになり、慌てて身をよじって体を半回転させた。
弾みでハリーの肩に激しくぶつかりながら、その隣へとなだれ込むように座り込む。

二人分の重さでソファーがキシリと悲鳴を上げて、ドスンと勢いのまま強制的に座らされたドラコは意味が分からず、瞳を白黒させた。
「いったい何するんだ!突然引っ張ったら危ないだろ」
自分の隣にいるふざけたヤツに怒った顔で噛み付く。
「まぁまぁ、そんなに怒んなくても……」とハリーは答えて、ニヤニヤと笑った。

ドラコの滅多にお目にかかれない、驚き目を大きく見開いた表情とか、慌てた態度とかが間近でバッチリ見れて面白かったのか、ご機嫌に相手を軽くなだめる。
「だってソファーといったら二人掛けだろ?君が偶然に僕の目の前に立っていたし、丁度いいかなって思って」
「もちろんよくはないぞ!だいたいソファーは二人掛けと限らないだろ?三人掛けとか、下手したら四人掛けとかそれ以上のサイズも探せばゴロゴロと、いくらだってあるじゃないか!」
「ああ、それはない」
あっさりと否定する。
「―――なぜだ?」
「なんでって、だって僕の家のリビングは狭いからね」
そう言ってハリーは半身を派手にジャンプさせて、ソファーに座ったドラコごと揺すったのだった。

「いいかげんにしろ、ポッター!」
ドラコはキレたように鋭く叫んだ。


作品名:Open the door 作家名:sabure