君が悪い
君の眉間にシワが寄るたび、君の指が机を叩くたび、僕の中の欲情が激しく駆け巡る。
君が悪い、君が悪い、君が悪い。
君が僕の前でそうやって隙を作るからこうなるんだ。
僕が堪えていたもの全て、君が掻き乱した。
ぽっかりと僅かに空けた口元。
嫌になまめかしく艶めいた唇。
悩んだ時、頭を抱えるように両手で髪を掻き上げるその仕草。
全てが悪い。
僕は向かいに座る君の頭を抱えるその両腕を掴むと、思いきり壁へと押し付けた。
唐突な行動への驚きと打ち付けられた衝撃に耐え切れなかった
君の華奢すぎる体が悲鳴をあげ、小さく唸るのが聞こえる。
俯きがちの君の小さな顔を下から覗き込み、すくい上げるようにして唇を重ねた。
衝撃で飛んでいた意識は口付けによってそのなりを取り直し、
普段は伏しがちな目を見開いた君は、声にならぬ声で叫ぶ。
それがあんまりにもうるさいから、今度は舌を差し入れた。
無理矢理君の舌に絡み付けば、君は尻込みして咥内を逃げ惑う。
もっと、もっと・・・我が儘な子供のように君を執拗に追いかけ、
もう息が出来ないという限界に達した時、ぴったりとくっついて
離れまいとしていた唇を、名残惜し気にはがした。
ふぁっという妖しい吐息を漏らした後、なにかをいいかけた君は酸欠なようで、
その華奢な肩で必死に息をして呼吸を正そうと努めている。
そんな君がまた欲しくなって、君の頬へ再度手を伸ばしたが、
その手は君によって弾かれ、間抜けにも空を掴んだ。
気がつけば伏していた視線はまっすぐに僕を見上げていた。
君はいつもの涼しげな表情と打って変わり熱の帯びた、
しかし酷く冷淡な眼差しで僕を見つめている。
違う、僕の求めていたものじゃない。
背筋の凍るようなすざましい侮蔑を孕んだその瞳に、ただ後ずさるしかなかった。
すっかり呼吸を整え終えた君は、僕をかわして部屋を出ていく。
瞬きをすることすら、息をすることすら出来ないでいる僕をよそに、
扉の閉まる音が響く中で君が何かつぶやいた気がした。
「・・・こんなの、愛じゃない」
僕が欲しいのは、君じゃなかった。