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NIGHT PHANTASM

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07.I'm here(1/6)



覚えている。
嵐の夜に、マスターとはじめて出会ったことを。二度目の人生がはじまった瞬間のことを。


誰も、これから音もなく訪れるであろう凄惨な未来を予想できなかった。近づく足音も、悲鳴も、断末魔も、全て激しく打ちつける雨の音と雷にかき消えた。
昨晩のように晴れていれば、自分達の家が少し中心より離れた位置にあるといっても、いつも顔を合わせるおばさんやおじさん達が気付いてくれたはずだ。
そして、自らの命をも賭けて助けに来てくれるに違いなかった。

夕食を終え、まだ幼かった二人が眠気を訴えるのに、さほど時間はかからなかった。おやすみと両親はキスをくれ、やさしく頭をなでてくれた。
手を繋いで、二階へと続く階段を上がる。
隣を見ると、ルイーゼが長い髪をわずかに揺らして笑っていた。
隣を見ると、アンナが相変わらずの短い髪のままで笑っていた。

いざ、部屋に戻ると睡魔は嘘のようにかき消えた。夜更かしがしてみたい年頃だったのだ。
二段ベッドは上か下かを毎日の交代で決めていて、この夜はルイーゼが上に寝る番だった。それでも二人はベッドに入らず、電気を消したままで今日あったことを語り合う。
いつも二人で行動し、べったりなせいもあり同年代の友達はほとんどいなかった。
一緒に遊ぼうと言うと、見分けがつかないと困った顔をされるのだ。分別がつくように妹のアンナが長い髪を切った日には、父も母も驚いたものだ。
ただ切っただけならいい。だが、あろうことかアンナは父が使う狩猟用の大きなナイフを使って乱雑に切った。幼いアンナには、両手で持つのがせいぜいの重さである。
その日は、手の届かない場所に置いておいたはずなのにと、珍しく父と母とが口論していた。それを二人は、不思議そうな目で見た。
全く、同じ目で。
見分けがついたらついたで、面白くないというふうに友達は複雑な顔をしていた。過去にはどちらが姉か、そして妹か当てる遊びをしていた日もあったらしい。
完全に、おもちゃ扱いされていた。

だから、道化を演じ楽しむことにした。
アンナに続いてルイーゼも髪を切り、しかしそのことは両親には内緒にした。そして、二人で貯めたおこづかいと切った髪とを持ち込みウィッグを作ってもらった。
どちらも足りないよと渋い顔をされたが、二人は引かない。帰り道、そこには皆が知るルイーゼとアンナの姿があった。
髪の長いルイーゼと、髪の短いアンナ。
世界は二人だけだった。
二人だけで、世界は何も望まなかった。

その後は、不定期にウィッグをかぶり『ルイーゼの人格』に化ける役を交代し、そんな二人のいたずらを疑う者はいなかった。
不思議なものだ。
作り物のウィッグをかぶるだけで『ルイーゼ』と言われる。そして、外すだけで今度は『アンナ』と呼ばれる。
あなたは、アンナ?
それとも、ルイーゼ?
鏡に映った自分に問いかけるように、二人は向かい合い、言い続けた。
「あなたは、誰?」

嵐の夜も、たとえ声がかき消されようと二人は話しつづけた。もう一人の自分へ。本当の自分へ。偽物の自分へ。
「あなたは、誰?」
「あなたは、誰?」
向かい合い手の指を絡ませて。そのうちに、二人は気付く。下の階で、誰かが声を荒げている。
「アンナ、またナイフで遊んでいたの?」
「そうなの、アンナ?」
「わからないよ、アンナ」
「ルイーゼはそんなことしない。アンナが、やったんだ」
言い終えた瞬間に、雷鳴が低い唸りをあげ、そして途切れた。代わりに聞こえたのは、心の底から震え上がるような悲鳴だった。
おそるおそる、部屋を出て階下を見る。
点いていた希望とも言える電気が、消えていた。不気味なほどの静寂に包まれた家は、ほどなくして悪夢を迎え入れる。


作品名:NIGHT PHANTASM 作家名:桜沢 小鈴