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てっしゅう
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「愛されたい」 第七章 真実

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「正しいことをしていないから・・・もし行雄さんと添えたいって思ったら、先に離婚があるべきなの。こうして二人が始まった後では、そこに戻れないからけじめはつけるって言うことなの」

横井には智子の考えが理解できなかった。

「お互いが好きなのにずっと一緒にいられないなんて、残酷だよ。智子さんがおれのこと好きって言ってくれて嬉しかったのに、今は哀しい気分だよ」
「始まったばかりで今なら引き返せるわ。このまま終わりにしましょうか・・・」
「なに言ってるの!本気で今そう言ったの?」
「あなたが困らせるようなことを言うから、そう言っただけ。本心じゃないから」
「おれはどうしたらいいんだ・・・好きな智子さんを目の前にして眺めているだけでこれからずっと過ごすのかい?」
「どうしたいの?」
「言わせないでよ。お互いに好きだったらひとつだろう?無理なこと言ってるかい?仲良くするって言うことはそういうことなんじゃないのか?」
「あなたは男の人ね。そういうことしか考えないのね。いけないって思わないけど、今日逢ったばかりなのよ」
「おれは前からずっと好きだった。智子さんもそうだって言ってくれたじゃない。今日が始めてなんかじゃないよ。メールもしてきたし、おれの心の中にはあなたしかいなかった。おれも智子さんがそうであったと思いたいよ」
「初めて逢ったときから素敵な人だと心の中では思っていたわ。叶えられるものならそうしたい。許されるなら何もかもやり直したい。そう思う自分がいるから怖いの。止められない自分が怖いの。少し待って・・・考える時間を頂戴」
「智子さん、本当にそう考えてくれるんだね?やったあ・・・言ってみてよかった」
「子供みたいなのね・・・ねえ?別れた奥様のこと聞いていい?」

「急にそこに振るのか?話さなくてはいけないことだけど」
「言える範囲で構わないのよ。原因は何?」
「離婚のかい?」
「ええ、そう」
「あいつは簡単に言うと嫉妬深い性格で、おれの女性関係をいつも疑っていた。名古屋の職場は女性ばかりだったろう?いつも気にしてた。メールチェックしたり、会社に偽名で電話したり・・・酷かったんだ」
「それはあなたがそういうことしていたからじゃないの?」
「智子さんまでそんな事言うなんて・・・淑子さんのことは特別だったんだ。今までに浮気をしたことなんてなかったんだよ。それを面白おかしく噂話にして言う奴がいたから妻は信じてしまったんだよ」
「本当にそうなの?私も今の言葉信じていいのね?」

真相は意外なことであった。

「妻はね、あろう事か浮気をしたんだよ」
「あなたじゃなく奥様が?本当なの?」
「ああ、娘が小学校の5年のときだったかなあ・・・相手は娘と同じ学校の父親だったんだ。信じられなかったんだが、どうやら学校の集まりで相談したりして仲良くなっていたらしいんだ」
「調べたの?」
「偶然だったんだけど、娘の日記見たら妻が時々出かけていたことが解ったんだ」
「娘さんお母さんのこと書いていたのね?」
「そうなんだ。でね、聞いたら、時々ママが帰ってきても家に居ないって話したから、問い詰めたんだ」
「なんて仰ったの?」
「ビックリしたよ。あなたと同じことしているだけよ、って平気で言ったよ」
「言い訳しなかったの?」
「何で言い訳など必要なの?おれは何もしてないし、やったこともないのに」
「でも奥様ずっと疑ってらしたんでしょ?そこがあいまいになっていたから信じきってらしたのよ」
「智子さんは味方するんだね、妻のことを」
「そうじゃないのよ。行雄さんがきちんとけじめつけてらっしゃらないから、そうなったって言いたいだけなの」
「けじめ・・・何度もつけたつもりだったのにそう受け取ってもらえなかっただけなんだけど、おれが悪いのかい?」
「浮気は奥様が悪いと思うわ。でも原因はあなたにもあるって思えるけど、私だってそうよ。あなたとこうしていることは誰がどう見ても私が悪いの。でもその原因は夫の私への振る舞いにあったって理解されないことと同じよね?」
「そういえばそういえないことは無いけど、おれにはどうしようも無かったからね。そのことで言い合いになって、娘を連れて実家に帰ってしまったんだ。それから離婚届が送られてきて、サインして、娘に会ってくれるなって言われて、もう5年経つよ」

智子はドキッとした。横井に娘の名前を聞く勇気が出なかった。もしかして・・・と考えたからだ。

「行雄さん、少し寒くなってきたの。車に戻りませんか?」
横井と身体をくっつけているというものの雨が降り続けているせいで、気温が下がっていたのだ。
「ゴメン、気がつかなくて。そうだ、この近くに温泉があるからそこに行こう。温まるといいよ」
「そうなの?温泉があるの」
「有名なところだよ。ぬるっとして美肌効果があるんだ」
「本当?嬉しいわ。きれいになりたいから」
「智子さんは今でも十分綺麗だよ。肌だってすべすべしているし・・・」
「いやだ、そんな事何故わかるの?」
「手に触れただけで解るよ。それに・・・」
「それに何?スカートの中のぞいたから・・・」
「そんな事してないよ・・・なんとなく・・・だよ」
「男の人ってそういうところ見ているのね・・・注意しなくちゃ」
「なんか話すとボロが出るなあ。早く行こう」

横井は雨に濡れないように傘をかざして助手席のドアーを開けて智子を座らせた。運転席に座った横井は智子のシートベルトを締めるとそのまま目をじっと見た。駐車場に人影は無い。雨で視界が良くないから誰からも見られることは無かった。

「智子さん、好きだ」
見つめられて、そう言われて、智子は顔が熱くなった。
「行雄さん、私も好きよ」
その言葉を聞いた横井はゆっくりと顔を近づけた。智子は少し顔を上に向けて目を閉じた。期待していたのではない。自然な成り行きにゆだねようと気持ちが変わったのだ。

軽く唇が触れた。少し放されて・・・今度は強く重ねた。その誘いに乗るように智子も強く吸った。
「智子さん、誰にも渡さない。おれだけの智子さんでいてくれ」横井は高まった感情を言葉にした。
「行雄さん・・・もうあなただけのものよ。でも怖い・・・何かが二人を遠ざけるような気がするの」
「何も無いよ。おれを信じてくれ」
「はい・・・そうします」
再び唇を重ねて髪を撫でていた横井の手が肩から胸に向かい始めた。智子はその手をぎゅっと握り締めて、
「キスだけにして・・・」そう言った。
身体に触れられると、きっと自分の我慢してきたものが崩れてしまうと思ったからだ。