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風間糀ニ郎
風間糀ニ郎
novelistID. 30887
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写真 part 4

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ただならぬ美幸の声で、私は階段をかけ登り、幸子の部屋に入ると、  幸子はあわ向けにベッドに横たわったまま、片目だけをつむって、いや、今思えば、片目だけが「開かない」ままそこにいた。  寝間着のままだ。  かたわらの目覚まし時計が倒れていた。

 どうやら動けないといった状態だ。  怪我はなさそうだった。  そばに座って、私は幸子の額に手を置いた。  とっさに「脳疾患」を疑った。  一刻を争う状態だと思った。

 「さちこ  どうしたんだ?  ん? 」  務めて冷静に話しかけた。

 「パ パ・・」とか細い声で、それでもどうやら「自由に動かせない」ような、そんなこわばった顔の筋肉を無理に動かして 笑顔を作ろうとしている。

   

 「幸子! さちこ! どうなの?!  どこが苦しいの!??」 幸子のダランとした右手を握ったまま、美幸は 狼狽した声で言った。


 「おき・ れ  な  いぃ」   「うぅご け な  いぃぃお・・」


    「救急車だ!  みゆき! 」


 「は・ はい!  はい!」  「落ち着け 美幸! ゆっくり降りろ!」


  階下に下りていった美幸の声がきこえてくる。  

 「救急おねがいします!  はい  怪我、というか! 娘がおかしいんです 動けないようで、、

  すぐ来てください!  は?!  あ、はい! 世田谷区、、  ・・だから! 事故じゃありませんよ!  動けないと言ってるでしょ!  すぐ来て! 」

 
 慌てて、怒った声でしゃべる妻の様子。  こんな時に 冷静に 淡々と話せるものは、まずいないのだが、 、


 妻が二階に戻ってきた。  「さちこ! どうなの?  息が苦しいの?  どうしてほしいの?」

 「救急車、すぐ来るからね。  がんばるのよ!  さちこ  ァァ・・」

 
 さちこは母親への目線を、ゆっくり私の方へ、向けて、

 「パァパ  ゴォ ベンデ、、 」 と、懸命に手を差し出して、それだけ言った。

 

  長い長い時間に感じたが、15分ほどだったろうか。 けたたましいサイレンを鳴らして、それはやっと到着した。

 近所から人が出ていた。  あたりの窓からそっと覗く視線が、この平和な界隈の早朝からの異常を察していたし、 ヒソヒソと囁きあう人々。 10メートル以上の範囲からは誰も近づくことは無く、ここはそんな町だったのだろうか。  空気が重く覆いかぶさって、息苦しい。  

 「家族の方、どなたか同乗していただけますか?」と救急隊員。

 「おれが行く。」  迷わず 私は言った。 「会社へ連絡を頼む! 病院からまた電話するから、

 心配するな  すぐさま命にどうこうはなさそうだから」

 そう、妻に告げて、救急車に乗り込んだ。   命がどうのと言ったのは妻と娘を安心させるためだけで、私自身は、今にも心臓が口から飛び出てきそうだ。  

 吐き気もする。  めまいも・・  

 この気分をどこかで、同じように味わったことがあると、もう一人の自分が考えていた。

 
 「そうか。。 響子の事故を告げる あの電話の時だ。  『おんなじ』だ・・・」


  いつもと違う近所から国道への景色が、後へ後へと流れていく。

 「血圧 98の55  バイタル・・ 」  そんな隊員さんの声を聞きながら、私は片目だけでこちらを見ている幸子の手を握り、興奮と異常なほどの冷静を 両方 感じていた。  冷静な私とは、つまりもう一人の私とでも言おうか。。

 こんな時にそういう分析めいたことをする自分を、なかば呆れてしまった。

 それにしても速度が遅い。  一体どこの病院に向かっているのか、、道路は混んでおり、それでも道を譲るやつもいるかと思えば、 スピードを上げるだけで、前からどかない車も多かった。

 何かの本で 「救急車といえども速度制限がある」とあったのを思い出したが、そんなことはどうでもいい。  

 「死ぬな! 幸子!  死ぬなよ! 死ぬなよ!!」と心の中で私は何度も何度も叫んでいた。


 

 

  幸子は病院に着くと、そのまま「ICU」へ運ばれた。  そしてすぐに次は検査の為に、「MRI」に。  私はその部屋の傍らのソファから、会社の部下へ電話をして、今日の会議の資料とその結果をファクスで夕刻までには送るように指示をした後、 博多の父親に知らせたものかどうか、思案していた。

 叔母には、 、、 ああ、 落ち着け! まだ死ぬと決まったわけじゃないんだ! なんでこんなときに段取りなどを考える!   やはり私も狼狽していたのだ。  そうだ! 「聡君だ」  やっと私は娘の彼のことを思い出した。   ああ、いや それはもう美幸が 連絡をしてくれているかもしれん。

 混乱する脳は めまぐるしく、 そのくせ 何も決められず、空回りばかりをする。

 じゃ、今の間に 何をすればいい!?   「こういう時」に父親はどうすれば・・

 
  私は自然に手のひらを合わせていた。  人間は 最後には  何か、大いなるものに、
祈るんだな。。   そんなことを思いながら、 祈ろう 祈れ  恭三! さちこを守ってくれるすべてのものに 祈れ!   「あの時」は もう間に合わなかった。   そうさ もう死んでいたんだ。

 でも、 幸子は違う 幸子は  「響子」ではないんだ。  だから 間に合うはずだ。

 再び、めまいが襲って来た。   そのせいだろうか。

 ふと 「誰かに、肩にそっと手をおかれた」ような気がしたのは・・・



作品名:写真 part 4 作家名:風間糀ニ郎