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君の髪に赤いリボンを

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9月の雨は嫌いだ。
夏のじめっとした暑さがまだ肌にまとわりついて、雨がさらに空気を重たくさせる。
「まったく、初日からこれか。」
夏休みが終わり、今日から二学期が始まるとゆうのに。なんとも暗い気分で始まってしまった。
気持ちとは裏腹に、前を歩く生徒達のカラフルな傘がなおさら気持ちを沈ませた。
高校に入って、初めての夏休みはほとんどをハワイで過ごし、クラスの奴らや、まして家族にだってまともに会わなかった。それはそれは、有意義な夏休みだった。まぁ、クソオヤジの策略にはまって、日だけ無駄な時間を過ごしてしまったが。それ以外は完璧だった。
なのに、登校初日にこの雨だ。
「さっさと帰って榊に茶を入れてもらおう。」
歩く速度を上げようと、前にいる生徒を追い抜かそうとした時、突然声をかけられた。
「アゲハ様。」
声のほうに傘ごと振り返ったものだから、彼は私の傘の水しぶきを派手に受け止めた。
黒いスーツに玉になってはじかれた水滴を手で払うと、彼はにっこりと笑って私を見つめた。
「こんな狭いところで傘を振り回しては怪我をしますよ?」
べつに振り回しているわけではないけれど、彼に水を浴びせてしまったのは申し訳ない。
「すまない。そんな近くにいるとは思わなくて。」
実際彼は、私のほぼ真後ろに立っていて、よく傘がぶつからなかったと思うほどだ。
私だけの過失ではあるまい。
「そうですね。申し訳ありません。少し距離を間違えました。」
そう言って、彼はまたにっこり笑うと自分でさしていた傘をたたみ、私の傘に手を添えた。
「は?何を・・・。」
驚いているうちに、傘は彼の手に渡り、二人でひとつの傘の下に落ち着いてしまった。
「こうしていれば、アゲハ様も私もいいこと尽くめです。さ、参りましょう。」
有無を言わさない笑顔に、私は何も言えずに瞬きを繰り返した。
おそらく上質なスーツに身を包んだ彼は、おそらく巷で言うところのイケメン男子だ。
真っ黒な髪は清潔に整えられ、陶器のような肌は女子がうらやむほどのキメ細やかさ。
加えて、韓流スターも顔負けの笑顔。
並の女子なら、肩を並べて歩きたい気持ちと、歩きたくない気持ちでせめぎあってしまうような完璧男子。
「そんなに見つめられて嬉しいのですが、そろそろ後ろの方達のご迷惑になりますから。」
いつの間にか、彼の観察に集中していた私の後ろには通りづらそうにしている生徒達が渋滞を起こしていた。
ただでさえ狭い歩道に、傘までさしているのだから当たり前だ。
あわてて歩き始めると、頭の上の傘も優雅に私についてきた。
「き、君はいったい誰だ。うちの者に命じられて来たのか。」
まったく初対面の彼に少しきつめに問いただすと彼はにっこり笑って
「まぁ、そんなようなものです。」
と言ったきり何も答えてはくれなかった。
迷いもせず、私の通学路を正確に進む彼はおそらく新しい執事か何かだろう。そう思って、私もあえてなにも聞かなかった。
とにかく、全ては家に帰れば分かるのだから。
さっきまで重たかった空気が、傘を手放してか、少し軽くなった。




金持ち。とゆうものは、たいそうつまらないものだ。
欲求とゆうものがないのだ。
生まれてから、16年程金持ちの人生を送っているわけだが、手に入らなかったものはなかった。
何かが欲しいと思ったことすら、記憶の中を探してみても思い当たらないのだから、本当につまらない。
一般家庭にあこがれる金持ちもいるようだが、私の場合そんなセンチメンタルな気持ちになることもなかった。
不自由なく生活できる暮らしが私の日常であり、それ以下でも、それ以上でもないのだ。
そんな無感動な子になってしまった私を、両親はたいそう気にかけているようだが、そもそも一年で数回しか顔を合わせない家族に心配されても、かゆくもなんともない。
大きな家に、私と執事の榊。長い間二人で生活してきた。
榊がいなければ私はまともな生活は送れないだろうし、榊もまた、私がいなければ生きていけないと思う。
私の全てが、榊とともにあるといっても過言ではない。
本当に、そう思っていたんだ。
彼が現れるまでは・・・・。

そつなく傘をさし、家まで見事にエスコートする彼は立派な執事のようだ。
門扉を静に開き、玄関の扉を開ける彼は、まるで毎日そうしていたかのように自然な動作で全てをこなした。
「お帰りなさいませ。アゲハ様。」
榊はいつものように笑顔で私の帰りを待っていた。
その笑顔を見れれば、幸せになれた。
私の後ろでドアを静に閉め、傘をたたんでいる彼に目をとめると榊は小さくため息をついた。
「レオ。傘は外でたたみなさい。それから、お嬢様に鞄を持たせたままとはどういうことだ。」
聞いたことのない、榊の声。
榊はこの男の知り合いなのか。
そう思った矢先、衝撃の言葉が彼の口から発せられた。
「申し訳ありません。私が鞄をお持ちすると濡れてしまいそうでしたので。父さんこそ、早くタオルを差し上げてください。」
さらりと聞き流しそうな会話の中に、《父さん》とゆうワードが聞こえたような。
「?!」
驚いて隣に立った彼の顔を見ると、どことなく榊に似ているような・・・・。
「まったく。だいたい同じ傘に入るからそうなるんだろう。」
小言を言いながら、手にしていたふわふわのタオルを私に手渡す。
「アゲハ様。鞄をお持ちしますので、濡れたところをこれで拭いてください。」
「あ、あぁ。」
鞄を榊に手渡し、タオルを受け取った。
そもそも、彼のおかげでほとんど濡れてはいなかったのだが、今の衝撃発言に気をとられてタオルを手に少しぼうっとしてしまった。
「父さん?」
気づかないうちに言葉が漏れていたらしい。
確認しないと状況が把握できないのだ。
「榊。この男は、榊の何なんだ。」
父さんとゆうからには、答えはひとつしかないのだろうが、あえてそう聞いてみた。
二人は顔を見合わせ、同じ笑顔で微笑むと声をそろえて答えた。
「家族でございます。」
作品名:君の髪に赤いリボンを 作家名:香亜