「山」 にまつわる小品集 その参
披露宴からの帰り、私たち山岳会のメンバーの待ち合わせ場所としてよく利用していた宝塚駅近くにある喫茶店に入って、海老出さんは私を慰めようとして下さいました。
「なんぼ顔が良うて収入がぎょうさんあっても、痔で悩んでるかもしれへんのやで。特に氷壁なんかやってる男は切れ痔なんかで苦しんでるもんや」と。
すると、鎌田さんも来ていらして、水とコーヒーを持って私たちのテーブルに移動してこられて、
「そやけどな鯛子さん、顔のパーツの形と部位がほんのちょっとずれてるだけやし、収入も負けとっても痔で悩んでるもんがここにおるんやで」
私はそれらの会話にプッと吹き出してしまい、力みがスッと体から抜けてくつろいだ気分になりました。
そして顔を上げると鎌田さんの熱い眼差しとぶつかったのです。それは以前からも感じていた慈しみに満ちた眼差しでした。
はっとして気付いたのは、ゆったりと和んだ気分になれる人と一緒にいられることの幸せ。
作品名:「山」 にまつわる小品集 その参 作家名:健忘真実