野蛮なスイカ
野蛮なスイカ
玄関のドアを開けると、真夏の熱気を纏った江宮の笑顔があった。
少し汗ばんだノースリーブのTシャツと、日焼けした太腿が露わになるまでカットオフされたデニム。ちなみにこのジーンズは彼女が自らハサミでぶった切ったものだ。
「暑中見舞い」
そう言って誇らしげに持ち上げたのは、重そうな白いビニール袋。
「スイカ……?」
「夏だからな」
俺を押しのけるように玄関を上がった江宮が台所へ向かう。
「そんなの冷蔵庫に入らないぞ」
調理台の上に鎮座した重量感のある緑の球体を眺めながら告げる。
「もう冷やしてあるよ」
問答無用で彼女は包丁を振り下ろし、真っ二つにされたスイカが赤い断面を見せた。
そう言えば、今年はまだスイカを食べていなかったな。子供の頃は毎日のように食べていたような気がするけど、最近はめっきり食べなくなった。水分ばかりのスイカよりもっと甘くて美味しいフルーツがあることを知ってしまったからだろうか。メロンなんて昔は病気の時くらいしか食べられなかったし。
江宮が四等分されたスイカをテーブルの上に置く。
「もしかして……全部食べるのか?」
「全部じゃないよ。智樹とアタシで半分ずつだ」
涼しい顔で告げた彼女が巨大なスイカに食らいつく。
赤い果肉を貪る姿を見ていると、やはり人間は肉食動物なんだなと思う。まあ、食べているのは果物なんだけど。いや、スイカって野菜だっけ?
「……食べないのか?」
すでに二切れ目に着手している江宮が口の周りをベトベトにしながら俺の顔を見る。
「え……? いや、食べるよ」
クォーターサイズのスイカを両手で支えながら食べると、しっかり冷えていて甘い。
皿に種を噴き出したら、彼女が「種は栄養あんだぞ」と笑った。
やはり俺はお上品なマスクメロンよりちょっと野蛮なウォーターメロンの方が好きなようだ。