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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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ジュブナイル4



 助手席で地図を確かめていた如月が、不意に顔を上げた。そして、眉を寄せ、辺りを見回すと、運転手に声をかける。
「近くでとめてくれ」
 赤信号が変わるのを待っていた京也は、何度か瞬きした。
「って――」
 辺りを見回すが、ここは東京都新宿区。はずれの方とはいえ、そうそう駐車場があるわけでもない。探せば、コインパーキングもあるのだろうが、土地勘のない二人では、首尾よく見つけられるとも思えなかった。
「この辺りで降りろ。ただし、これ以上、あの方向には近づくな」
「はえ? 近づくなって……っと」
 信号が変わり、ゆっくりと車を出した。交差点を抜け、当初とは違う道を選び、左折する。
「あの方向なのだろう? 天香は」
 如月の問いに、京也は頷いた。


 少し戻ったところで、端に車を寄せて止めた。
 運転席から降りて、車の反対側に回ると、後席の扉を開け、荷物を取り出す。取り出した小田急の紙袋を、助手席から降りた如月が取り上げた。
「後で送る」
「って、コレ、今回の主目的……」
「京也」
 強い調子で名を呼ばれ、京也は言葉を切り、如月をじっと見た。
「――校舎外に出ることまかりならず、だそうだが。本当に、休日などに抜け出すのはいないのか?」
「えーっと。……どうだろ。生徒会の見回りがきっついからなぁ」
「監視カメラでもあるのか? 二十四時間制でガードマンが見張っているような。三十分もかければ都心だぞ?」
「うーん、転校したばっかりだからわかんないっすよ。とりあえづ、今親しい子から誘われたことはないけど、マジメっぽい子と無気力一直線だしなぁ」
 転校初日に声をかけてきた二人を思い浮かべ、首をひねる。
「とりあえず、黄龍甲は預かる。後で届けよう」
「はぁ……」
「それと。R協会がらみということは、遺跡か何かだな。黄龍甲が届くまで近づくな」
「え。もう遅……」
「近づくな。今からでも」
「あう」
 いつもの態度のでかさとは一線を画した強い調子に、京也は頷いた。そして、所在なげにかりかりと頭をかき、スポーツバッグを持ち直す。
 如月は、車内にもう一つ残っていた紙袋を取り出し、京也に差し出した。
「……気をつけろ」
 京也が紙袋のもち手を掴んだところで、小さく引き寄せた。そして、そう、一言だけ呟く。
 無言で頷く京也に対して笑みを浮かべ、天香学園の方向に頭(こうべ)をめぐらす。
 目を細め、その方向をじっと見た。


 嫌そうな顔でガクランを着て去っていった京也の背を笑いながら見送り、如月は車内からPHSを取り出した。
 住所録から一つの名前を選ぶと、電話をかける。
 ほどなくして、相手が出る。
「すぐ来い。いや、今どこだ? ならば」
 しばらく考えた後、天香学園までバスで十五分ほどのもより駅を指定する。
「すぐ、だ。ああ、一時間後に」
 強引に相手から返答を引き出すと、通話終了ボタンを押した。
 運転席に乗り込むと、ハンドルを握る。天香学園の方角を向いた顔は、京也を見送った時とは別人のように険しい表情を浮かべていた。


「よぉ。はんにちぶりだな」
 幾分か不機嫌な村雨の声に、如月は閉じていた目を開いた。そして、持っていた小田急の紙袋――黄龍甲――を持ち直す。
 改札は、自宅に帰る人々でごったがえしている。その中で、彼ら二人は、明らかに異質だった。
 小さく頷くと、バス乗り場に足を向ける。
「どこへ行く気だ?」
 バスを待つ長い列の最後尾で、村雨は尋ねた。駅から吐き出される人の群れに視線を向けてから、如月は短く応えた。
「実際に近づいた方が早いだろう」
「車じゃないのか?」
「駐車場にある」
 やってきたバスに乗り込み、適当な位置に立つ。
 帰宅途中らしい人々で車内は混んでいた。改めて村雨の姿を見、如月は口元を笑みの形にゆがめた。
「通報されそうないでだちだな」
「薫の護衛っぽくキめてこれば満足か?」
「それはまずい。……お前に期待する方が無駄か」
「うるせぇ」
 口ぶりほど不機嫌そうではなく、村雨は視線を窓の外に向けた。目を細める様子を如月は黙って見守る。
 やがて目的地もよりのバス停にたどりつき、二人はバスを降りた。
 暫し無言で目的地に向かい、途中で足を止める。
「物理結界か」
 村雨の言葉に、如月は無言で頷く。
「持って入ることはできそうだったが、念のため取り上げた」
 そう言って、黄龍甲いりの紙袋に視線を落とす。
「正解だ。つっても――」
 無精ひげの生えた顎をこすりながら、村雨は眉を寄せた。
「予想以上だな」
「これ以上は、僕には近づけない。これのせいかもしれんが」
「試してみるかい?」
「いや、今はいい。それより」
「おっと、大体用件はわかる。だが――。様子は分かった。とりあえず、場所を移そう」
 村雨の言葉に、如月は無言で頷いた。


 港区にある億ションの地下駐車場に車を停めたところで、如月はぐったりとハンドルにつっぷした。
「村雨。……自宅まわりの一方通行の場所くらい覚えろ!」
「がんばって帰れよ。こっちじゃあ、運転なんざ運転手にまかせっきりなんだから勘弁してくれ」
 いささか気の毒そうな口調で言い、如月の肩を叩くと、村雨は車を降りた。
 ずらりと高級外車が並ぶ中、その車だけが、ファミリー向けの国産車だった。普通車でこそあるものの、5ドアハッチバックの愛嬌のある車体は、山手線内側の高級マンションの駐車場で、ある種異彩を放つ。
「役立たずが」
「ナビゲーションシステムっつーのがあるだろうがよ」
「京也に言ってくれ。これは、京也の車だ。――今日だって、こんなとこまで来たのがばれたら何をされるか」
 如月の言葉に、村雨は目を見張る。そして、面白そうに笑うと、エレベータの方角を示した。
「是非、見てみてぇもんだ。アンタがしばかれてるトコなんてのは」
「黙れ。お前も同罪だ」
 黄龍甲の入った紙袋を手に、憮然とした表情の如月を見て、村雨は笑みを深くした。

「多分、アンタの用件ってのは黄龍甲をこっそりセンセイに届けることだろう。悪ぃ。俺には無理だ」
 最上階の部屋に入り、ソファに腰を下ろしたところで、村雨は頭を下げた。
「アレは専門外だ。御門ならまだ力技でなんとかするかもしれんねぇが、俺程度じゃあどうやったって、中の連中にど派手に知らせちまう。もっとも、黄龍の器が侵入した(はいった)ってのがばれてる可能性も高い。派手にやっちまうっつー手段(やけくそ)もある。そっちなら、協力は出来る。が、今の段階じゃ賛成はできねぇな」
 そう言って、テーブルの上で灰皿を引き寄せると、ポケットから煙草を出す。一応、如月に向かって振り、許可を求める。嫌そうながらも頷く相手に苦笑を返し、一本だけと断り、火をつける。
「実物を見て、ハッキリした。多分、そうじゃねぇかとは思っていたんだが」
 きつめの煙草の匂いが漂う。
 如月は、ぐったりとソファの背に身体を預けた。紫煙の向こうで、村雨は眉を寄せている。
「アンタ、天香についてはどれくらい調べた?」