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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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ジュブナイル5



 留守電にいれるメッセージを考えながら、如月翡翠は村雨祇孔に電話をかけた。
 だが、予想に反し、ワンコールで深い声が応答する。
「京也から連絡があった。黄龍甲は、無事届いたらしい」
 挨拶もそこそこに伝えた言葉に、笑いの気配が返ってくる。
「そりゃあ良かった。つっても、アンタにしてみりゃ心配事が増えただけか?」
「まぁな。実際、届いたとは言うものの、それは「持ち物検査で教師に取り上げられなかった」と、そういう証明でしかない」
 言葉を切ると、如月は大げさにため息をついてみせた。
「今夜から元気にもぐります、だそうだ。……全く」
「元気じゃないよかいいじゃねぇか。まぁ、モノがモノだ。センセイとあわせて内部に取り込むには危険すぎるだろう。届いたんなら、それなりに安心してもいいんじゃねぇか?」
「そう考えている。これで心配の質が変わった、と。それだけだ」
「そんなふざけた連絡をよこすようなら、今んトコそっちも平気なんだろうさ。こっちも、天香についての調べが進んでいる。来るか? それとも」
「そうだな。……迷惑でないなら伺おう」
「了解。今晩でどうだ?」
「助かる」
「じゃあ、うちの方で」
 電話を切り、息を吐く。
「考えれば考えるほど、良くない方向に向かうな」
 一人、口に出して言い、苦笑を浮かべる。ファックスつきの電話機に表示されている時刻を確かめ、港区の億ションに至るまでの時間を計る。
 差し引きの余剰時間で、すべきことを決めると、電話の前から離れた。


 家を出ようとしたところで、電話が鳴る。片方だけはいた靴をもう一度脱ぐと、急いで電話機の方に戻った。
「お待たせいたしました、如月骨董品店でございます。――ああ、壬生か」
 なめらかな商売用の応対が、相手を知り、友人に向けたものに変わる。
「ご無沙汰しています。今日は、ちょっと探していただきたいものがあってかけたんですが……大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。電話で話せるような内容なのか?」
「大丈夫なものと、そうでないものが。申し訳ありませんが、時間を作ってもらえますか?」
「あいかわらず、剣呑だな。今夜というのでなければ」
「では、今週末、できれば午前の十一時頃がいいのですが。大丈夫ですか?」
「ああ、待っているよ。……っと」
「如月さん?」
 何かを言いかけて言葉を切った如月の様子に、壬生は怪訝そうに問いかけてきた。しばらくの間をおいて、如月は当面の問題について口を開く。
「壬生。――天香学園というのを知っているか? 新宿区の全寮制の高校だ」
「天香?」
 如月は、受話器を握る手に力を込めた。しばらくの沈黙の後、あっさりとした否定が返ってくる。
「いえ、残念ながら。……何か?」
「いや、なんでもない。来た時に話そう。もし、何か知っているようなら、教えてほしいと思ったんだが」
「そうですね。手土産代わりに、分かる程度のことを調べていきましょう。では、週末の件、よろしくおねがいします」
律儀に頭を下げる姿が目に浮かぶようだった。
「ああ、待っている。気をつけて」
「はい。――そちらこそ」
 電話を切り、目の前のカレンダーに壬生の来訪のメモを書く。
 ざっと辺りを確かめ、再び家を出る。今度は、電話が鳴ることはなかった。


 エントランスで了解を取り、エレベータで最上階まで上がる。大きなマンションだが、最上階ということさえおぼえていれば、部屋番号を覚える必要はなかった。そのまま入って来いという指示に従い、階に一つしかない扉を開けて部屋に入る。
「すまない。わざわざ時間をとってもらって」
「いや。あのセンセイがらみとなれば、俺にとっても他人事じゃない。ああ、芙蓉がすっとんで行きそうになった。全く、主人の分まで猪突猛進になりやがって」
 そう言って笑う村雨のあとについて、先日のソファに腰を下ろす。
「それで、どうしたんだ?」
「マサキ様に心配かけんなつったら大人しくなった。今日も、来たそうだったがな」
 人形(ヒトガタ)の美貌に、不器用な焦燥を浮かべる女性の姿が浮かぶ。京也が村雨のことを「変わっていない」と評したが、真に変わらないのは彼女のほうだ。
「しかし、こんな短期間で二度の訪問になるとは思わなかった。――学生時代からここなのか?」
「いや、帰ってきてからだ。おかげで、まだ馴染まない」
 そうかと頷き、如月は改めて辺りを見回した。そのままモデルルームの撮影にも使えそうな部屋だった。一揃いで購入したらしい洒落た家具が、やたら広く開放感のある部屋に収まっている。そのままドラマの撮影に使おうとすれば、リアリティがないと文句が出るだろう。
「――ここに来る前に、壬生から電話があった」
「ほう?」
 如月に、ミネラルウオーターのペットボトルを差し出しながら、村雨は目を細めた。
「電話で聞いた限りでは、知らないようだったな。週末に、手土産代わりに分かることを調べてくると言っていたが」
「たいした情報は出てこないだろうな。奴さんも大変だ」
「今どんな仕事だ? などと聞くわけにもな。――知らないというのが、本当だといいんだが」
「全くだ」
「壬生と京也が対立関係になるとなれば……」
「オイタはメッ! ってカンジで、殴り倒してでも連れて帰るのがいいだろうな」
 村雨の芝居がかった仕草に、如月は小さく笑い頷いた。
「だが、それでもと京也が言えば……」
 不意に真面目な口調になり、目を細める。
「やめようや、若旦那」
 その表情を見、村雨は首を横に振った。そして、口調を変えると、テーブルの端においてあったA4の封筒を、如月の前に放る。
「とりあえずは、今の天香学園についてだ。芙蓉が気合入れて調べてたデータだ、活用してやってくれ」
「ああ、ありがとう。彼女にも伝えてくれ」
 さっそく封筒から上質紙の束を取り出す如月に、村雨は笑みを返した。


「墓守か……」
 一通り目を通し、如月は書類をテーブルにおき、呟いた。
 それを受け取り、村雨はぱらぱらと中を見るともなしにページを繰る。
「ああ」
「敷地内に墓があるとは言っていた。おそらく目的地はそこだろう」
「護人と正面衝突か」
 特に驚いた様子もなく、書類をテーブルにおく。
「埋まっているものは、超古代のテクノロジー。……いきなり胡散臭くなってやがる」
「ロゼッタ協会が目をつけるくらいだ。お前からすれば、与太話もいいところだろう。それに、遺跡内部に侵入となれば、普通に考えて護人とは対決になるはずだ」
 ぬるくなったミネラルウオーターのペットボトルをあけ、如月は喉を潤した。
「気になるのが、ここだな。さすが芙蓉、よく調べてある」
「ああ。《秘宝の夜明け》(レリックドーン)」
「どっちも超古代文明系だ。おんなじものに目をつけててもおかしかねぇ。どうだい? こっちとはお知り合いかい?」
「まぁな。ロゼッタ協会が、あくまでもハンター個々人を支援する組織であるのに対し、秘宝の夜明けの方は、会長を頂点としたピラミッド型の組織」
 一旦言葉を切ると、如月は眉を寄せた。