写真
小腹が空いたな、、と思いながら寝そべっていて、なんとなく戸棚に目が行った。
長年、開けたこともなく、そこだけ時間が止まったような我が家の一角。 どっこいしょと立ち上がり、戸を開けてみた。
そこは古いアルバムなどが仕舞ってある場所で、他には娘の「ヘソの緒」やら旅行にでかけた時のお土産なども収まっている。
妻とはもう結婚20年目を過ぎ、お互いが居ても居なくても、あまりどうということもなくなったのだが、今夜のご飯の心配もしながら、何となく新婚当時のいわゆる「いい時代」の映像でも見てみようと思い立った。
懐かしい妻のピンクのウェディングドレス姿。 若かった二人の写真。 そして、集合写真・・
ああ、この叔父も死んじゃったなぁ・・ この従兄弟は まだずいぶんと髪があったなあと、とりとめもなく思ったり、クスっと思い出し笑いも出たりで、ページをめくっていた。
大方がお決まりの披露宴の様子を一通り眺めて、、、
急に 「あれ?」と思った。 なんかヘンだな・・・。 もう一度「集合写真」のところを出してみた。 何か前に見た時と感じが違う。 なにしろ大勢で披露宴をやっていた時代だ。
小さな顔を、これは、秋田の叔母で、 これは、先輩の中山さん、 と一人一人確認しながらいく。
妻の友人たちの顔は、当時に何度も彼女から「これはだれ。 これは会社の同僚の。。」と聞かされていたから、名前はともかく顔だけは覚えていた。
そして、 結局どうしても名前は勿論、見覚えのない人が ひとり・・残った。
「これ、誰だ・・・??」
なんとなく背すじに寒いものが走った。
なんのことはない、私と妻の間の「やや斜め後ろ」の不自然な位置に、女性がいた。
不自然、というのは、それがまるでそこだけ遠近の感覚がおかしいと思ったからだ。
前にこれを見たのがいつだったか忘れてしまっていたが、そんなこととは関係ないだろう。 普通、「ご両人の間」で写真に収まる「大人」がいるのは不自然だ。
そう、前に見た時にはこんな女性はいなかった。 間違いない。
どうして気づかなかったんだろう・・とまず考えた。
いや、その前にこんな不自然な位置関係でプロの写真屋さんが、シャッターを切るはずもない。
そして、背すじが寒い、と感じたにはもう一つ理由があった。
「誰かに似ている」と思ったからだ。 年の頃なら三十年配だろうか。 エリの辺りをみると決して正装ではないし、むしろ普段着か、もしかしたら・・・パジャマか部屋着?のような恰好だが、上半身のその半分くらいしか写っていない。
どこか見覚えがあるような顔立ちのその女性は,一体、、 誰だ・・?・・・
表情は笑顔だ。 それも、とても親しげに微笑んでいる。
食い入るようにじっと見ていると、突然、
「ただいま~!」 と、妻の声がした。 「わっ!!」と体が飛び上がるほど驚いた私は
なぜか大急ぎでアルバムを片付けた。 「おかえり。」 「ウン。 幸子は?」
「ああ。まだだ。 電話もないし、もうそろそろ帰ってくるんじゃないか?」 「そう・・」
それでおしまい。 妻は 「着替えたらすぐ支度するわね。」と言いながら二階への階段へ向かって行った。
正装で出かけていた妻の後姿を見ながら、今夜は寝つけない夜になりそうだな、と思った。
後で思えば、この時に 妻に見せてみれば良かったのだが。。
つづく