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でんでろ3
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novelistID. 23343
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さよならの手紙

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もう、会うまいと心に決めた人だった。
 でも、最後に一言だけ想いを伝えてから、この地を去りたいという気持ちを、どうしても抑えることが出来なかった。
 私は一晩かけて、あの人に宛てた短い手紙を書いた。

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前略 一筆啓上申し上げます。お久しぶりです。お元気ですか。ご両親もお元気でしょうか。弟さんはいかがですか。犬のタロウも元気ですか。冷蔵庫の調子が悪いそうですね。なんでも、スマホがウイルスにやられたとか。そして、あなたの大切なあの人も、お元気ですか。

 あなたが、この手紙を読む頃には、私はこの町にいないと思います。市内にもいません。県内にすらいません。本州にもいません。日本にもいません。この星にもいません。そんな訳はありません。案外、あなたの家の屋根裏とか縁の下に潜んでいたり……しませんから、安心して下さい。

 何も告げずに立ち去ろうと思ったのですが、最後に一通だけ手紙を書くことをお許し下さい。これから、最後の電話や、最後のメールや、最後の電報や、最後の矢文や、最後の狼煙(のろし)なんかが、次々、あなたを襲う。……なんて事は、ありません。

 あなたと過ごした日々、あなたの優しさ、あなたの声、あなたの血液、あなたの指紋、あなたの残尿感。すべてが手を伸ばせば届きそうに思い出されます。でも、それはもう、すべてあの人のものなのですね。せめて残尿感だけでも……。いえ、もうやめましょう。

 幸せをくれたあなたに、ありがとうを言いたいけれど、その幸せが、この苦しみを生んでいることを思うと、恨み言を言いたいような気もします。私の幸せを奪ったあの人を、ぶち殺してやりたいと思ったこともありましたが、独りでフォークダンスを踊って、「それはコロブチカやろがっ!」と、自分で自分にツッコンでいます。あなたがいてくれたら、ハリセンやらレンガやらチェーンソーなんかで激しくツッコンでくれたのに……。心があなたを忘れても、私の後頭部は、なかなか忘れてくれそうにありません。

 さよならを告げられて、さよならを返すまでに、いろいろあなたを困らせたけれど、もっと困らせてやろうか、ふっふっふっ。……などと不敵な笑いを頬に浮かべてみても、沈めてみても、あなたの心は帰らない、戻らない。カエルの腹にはヘソが無い。なんだかとっても情けない。

 さよならひとつ、まともに言えない私に、愛をくれてありがとう。もしも、どこかの街角で、あなたに再び会ったなら、とびっきりのギャグをかますから、思いっきりツッコンで下さい。私は、いつでも特大のハリセンを持って歩いています。

 もうすぐ秋風が吹き始めます。お風邪など召しませぬよう、ご自愛のほどを。 かしこ

 追伸 くさやの干物を同封いたします。煮るなり焼くなり好きにして下さい。

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 手紙を投函してしまうと、これで本当に終わってしまうのだ、という気持ちが喉元にまで込み上げてきた。あの人は、手紙を読んで、私を怨むだろうか。それとも、……。
 どちらでも同じことだった。私は、もう新しい人生を始めるのだ。あの人のいない人生を……。

「さよなら」

 ポストに向かって、そう呟いた私は、肌寒い夜明けの町を、駅に向かって歩いて行った。
作品名:さよならの手紙 作家名:でんでろ3