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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑アナザー

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 真珠姫は必死になって龍神を制御しようとするが、なにか大きな力に阻まれているようにうまくいかない。
 焦る真珠姫を前に紫苑は理解に苦しんだ。なにが起こっているのかわからない。紫苑以上に当事者の真珠姫は理解できなかった。
 なんの力に阻まれているのかわからない。
 まさか瑠璃が力を吹き返したのかとも思ったが、そういう感じはまったくしないのだ。躰はまだ言うことを聞き、真珠姫自身には問題はない。
 なのに龍神は東京湾を渡り広い海に向かって進んでいるのだ。
 戦いなど忘れ、目の前に紫苑がいることなど忘れ、真珠姫は龍神の制御に全神経を集中させた。
 なにか大きな力が働いている。
 このとき、ホテルの屋上にいた誰一人知らない事実であったが、龍神と戦闘を続けている飛空部隊は微かに気付いていた。
 目を疑うことであるが、龍神の頭に人影あるのだ。
 辺りは暗くなっていると言うのに、その色だけは眼に焼き付き離れない。
 鮮やかに紅い影が龍神の頭に乗っている。それは確かの事実だった。
 そんなことを知らない真珠姫は狂気を露にした。
「なぜじゃ、おのれおのれおのれーッ!」
 鮫のような尖った歯を鳴らしながら真珠姫は眼をギラ付かせた。
 龍神に気を取られている今がチャンスかもしれない。今なら真珠姫から瑠璃の肉体と魂を取り戻せるかもしれない。
 しかし、その術を紫苑は知らない。
 どうしていいのかわからず紫苑は立ち尽くしてしまった。
 そのとき、龍神に気を取られている真珠姫の内で、変化が起ころうとしていた。
 自らに起こる変化に気付いて真珠姫は抵抗しようとした。
「おのれ瑠璃姫かっ!」
 肉体の内で瑠璃の魂が必死の抵抗していた。
 やはりまだ瑠璃の魂は消滅していなかったのだ。
「私を……私を……」
 瑠璃の声がした。それを消そうと真珠姫が言葉を被せる。
「勝手にしゃべるでない!」
 まるで腹話術をしているようだ。
「殺して……私はもう消えてしまう……だから……肉体を奪われるくらいなら、私を殺して……」
 これは瑠璃の最期の抵抗だった。
 もう瑠璃に力は残っていない。己の消滅を悟って最期の力を振り絞ったのだ。
 紫苑はゆっくりと手を上げた。
 そして、煌く輝線が世界を翔けた。
 絶叫と共に割られた真珠姫が血を噴き、何かが砕ける音がした。
 脅威の生命を根源たる彼女たち一族が持つ心玉が割られた。
 砕け散る心玉は瑠璃の心を象徴するかのように、美しく輝きながら散って逝った。
 核を失った肉体は急激に干からび、黒い湯気のような霊体が抜け出した。瑠璃は死んだ。しかし、邪悪な真珠姫の霊魂はまだこの世に存在していたのだ。
「おのれ、もう容赦はせぬぞ!」
 紫苑に襲い掛かる真珠姫。
 だが、紫苑は冷酷に言い放った。
「……永劫の闇に苛まれるがいい」
 すでに紫苑は空間を切り裂いていた。
 闇色の裂け目から哀しき鳴き声が聴こえた。
 泣き声が聴こえる。呻き声が聴こえる。どれも苦痛に満ちている。
 渦巻く悲しみ。
 裂け目から飛び出した〈闇〉は渦をつくって真珠姫の霊体を呑み込んだ。
 歪んだ真珠姫の顔が遠い世界へ引きずられていく。
「呪い殺してやるわ!」
 最期の捨て台詞を吐いて真珠姫は裂け目に〈闇〉と一緒に消えた。
 そして、裂け目は固く固く閉ざされたのだった。
 龍神は大人しく大海原へと進み続けている。
 真珠姫を失い、龍神が暴れることをやめた今、ゾーラとキラは追い詰められた。
 3対2ならまだやれる。
 ゾーラは決して負けを認めようとしなかった。
「お前たち勝ったと思うな、最後に勝つのはこの私だ!」
 そして、事態はまた大きく動こうとしていた。
 物陰に隠れていた亜季菜が何者かに捕まり、屋上に次々と男たちが現れたのだ。その一団を率いていたのはシュバイツ。
「遅れて申し訳ないね。真打は最後の登場するのがセオリーだろ」
「おお、シュバイツ!」
 ゾーラは歓喜を声をあげ、キラも続いた。
「アニキ、おっせーぞ!」
 シュバイツはにこやかに微笑んだ。
「それではゾーラさん、観念してもらいましょうか」
 その言葉にゾーラは一瞬言葉を失った。
「……なんだと?」
「聴こえましたよね、あなたの負けです。ま、早い話が私は寝返ったということですよ」
 そう、シュバイツはゾーラを裏切り、元の鞘に納まったのだ。
 シュバイツが引き連れて来たのはD∴C∴の構成員。みなゾーラたちを追っていた者たちだった。
 そーっとキラはシュバイツに歩み寄った。
「そゆことならオレも」
 キラもゾーラを見捨てた。
「おのれ貴様ラァァァァァッ!!」
 人外の獣と化してゾーラは咆えた。
 味方を失い四面楚歌となったゾーラは握っていたチェーンを捨てた。
 降参したのではない。
「お前たちに私は裁けぬ!」
 背を向けて走り出したゾーラはそのまま屋上から空に飛んだ。
 そのまま下に消えたゾーラ。
 すぐに皆は屋上から身を乗り出して地面を確認したが、辺りはすでに暗がり包まれよく見えなかった。
 その後、隈なく辺りが捜索されたが、ゾーラの死体が見つかることはなかった。
 事件は多くの人々の命を奪い、多くの被害を出し、主謀者の失踪によって幕を閉じたのだった。

 龍神は太平洋に出たのちに深い海の底に沈み、再び人々の前に姿を見せることはなかった。
 例え龍神が海に還ったとは言え、人々は想像を絶する存在を目の当たりにした。
 この事件を切欠に、ゾーラが望んだように世界は変わるかもしれない。
 戦いを望まぬ瑠璃の想いは……。

 暗い部屋の中で、独り愁斗は胸の苦しみを覚えた。

 CASE06(完)