「愛されたい」 第三章 家出と再会
「有里は彼のこと好きなんでしょ?」
「うん、友達以上に感じているよ」
「お母さんはねあなたと同じ年に大好きだった人と結ばれたのよ。そのことを言わずにお父さんと結婚した。言う必要も無いって思っていたからね。昨日、あなたの彼の話になったときに、昔の彼のことを聞かれ、何故黙っていたんだって叱られたの」
「お父さんお母さんにそんなことを言ったの!信じられない・・・結婚する前のことなのに。お父さんだって付き合った人いたんでしょ?」
「多分お母さんが初めてだったと思うわ。付き合うことも」
「そう、だからそんなふうに考えたのね。有里はお父さんの誰にも渡したくないって言う気持ちも解らないではないの。父親ってそういうものだって聞くからね。でも、お母さんに対してそんな事言うのは失礼よ。夫婦として成り立たなくなっちゃうと思わなかったのかしら」
「思う人じゃないから、そう言ったのよ。時々辛い事言われていたけど、昨日は堪えた。お母さんね、ちょっと考えるから怒らないでね。あなたや高志のことは絶対に離さないから、心配しないで」
「お母さんどういう事?お父さんと離婚するって決めたの?」
「直ぐじゃないよ。そういうことも考えるっていうことなの。妻としてだけじゃなく女として否定されたら、一緒に暮らす意味も無いなあって感じたの」
「何を否定されたの?」
「お父さんとはもう何年も夫婦の関係が無いの。有里に話すことじゃないけど、同じ女として解ってもらえるかなあって思うから言わせてもらった。ゴメンねこんな話して」
「お母さん・・・悪いのはお父さんだよ!有里が今晩お父さんと話すから早まるのは止めてね」
「ありがとう。でも、これは私たち夫婦のことだからあなたに世話かけることは出来ないの。有里は心配しないで、学校に行って。お母さんは大丈夫だから」
「本当に?傍にいなくていい?今日は休めるから家に居るよ」
「本当にいいのよ。お母さんお話できる人がいるからその人に聞いてもらう。男の人じゃないから勘違いしないでね」
「うん、解った。じゃあ学校に行って来る」
「言ってらっしゃい!彼と仲良くするのよ」
「ありがとう」
有里が出て行った一人の部屋でゆっくりと熱いコーヒーを飲む。今までとは違う空気が家の中に流れていた。子供とはいえ同じ女なんだと有里には彼と幸せになって欲しいと願った。
その日の夜夫は帰ってくるなり、
「今日からおれの部屋で寝るから布団を入れておいてくれ」そう言った。
「私のことが嫌いになったの?」どうでも良かったがそう智子は尋ねてみた。
「当たり前だろう。朝起きてもこないようなお前を好きになれるか」
「それは、あなたに酷いことを言われて、眠れなかったからよ。好きでもないのに、好きになれないなんて言わないでよ」
「酷いことをしたのはお前のほうだろう。おれはずっと信じてきたんだぞ。おれだけだって言うことを」
「あなたは私のどこが好きになって結婚したの?教えて」
「純情なところだよ」
「私はあなたに対して純情じゃなかったの?何か気に入らないことしたかしら?」
「何が純情だ!他の男と寝たくせに・・・」
「あなたと付き合ってから、そうしたなら非難を受けるわよ。でも、付き合う前の事じゃないの!誰だっていい年になったら好きな人が居たり、恋愛したりしているのよ。違う?」
「恋愛はいいよ。好きになってもいいよ。寝ることは別だろう?結婚して責任とってくれる男と初めてそうなることが筋だろう?おれはそう考えていた」
「あなたは変よ。恋愛とセックスを別々に考えている。責任を取るって言うのは子供を作って育てると言うことなの?」
「それ以外にあるのか?」
「愛情表現よ」
「おれの金で生活をさせて、子供を結婚まで育てて行くことが愛情だと思えないのか?お前にとって愛情とは抱かれないと感じられないことなのか?」
「結婚ってあなたにとって生活をする場所を作るだけ?」
「何が言いたいんだ」
「私や有里のことは何んにも解ってないじゃない!」
「なにか不自由をさせたか?お金に困らせたか?買いたいもの買えなかったのか?言ってみろよ、もっと具体的に」
「もういい!とにかく有里の事は私に任せて。二人がしっかりと交際してゆくように見守るから」
「お前には任せられない。結婚前に身体を許すような女だからな」
「あなたは最低ね!何を言っているのか解ってるの?私にそんなことを言ってどうなるか考えたことがあるの?」
「どうなるって言うんだよ。言ってみろよ」
ここまでの話し合いで智子はもう結論を出していた。
しかし、今日は我慢をして自分が折れたように言葉を引いた。
「またゆっくりとお話しましょう。言い合いになるだけだから」
「朝はちゃんと支度しろよ、いいな」
「解ってますよ、言われなくても」
気持ちがいらいらして家事をやっていると失敗したり忘れ物したりするから、なるべく考えないように振舞っていた。子供たちにも余計な心配をさせたくなかったし、自分が落ち着いていればそれで済む、と今は気持ちを落ち着かせていた。
一月ほど経って文子からメールが来た。お茶をしようと言ういつものメールではなかった。自分が入っているカラオケグループの発表会があるから、是非予定を空けて見に来てくれるようにとの誘いであった。次のエアロビの帰りに文子からその返事を聞かれた。
「どう、来れそう?仲間内の小さな発表会だから服装なんかも気にしないで見に来てくれればいいのよ」
「解りました。出来るだけおしゃれをして見に行きますから。文子さんのお友達に恥じをかかせるような格好で行けませんから、大丈夫ですよ」
「ありがとう。みんな喜ぶわきっと。あなたみたいな若い人が見に来てくれたら、励みになるしね。それと最近少し痩せたわね。効果あったみたいね、エアロビが」
「そうなんです。急になんです。始めて一月は落ちなかった体重がこのところ5キロ減ったんです。ビックリなんですよ自分でも」
「そうなの!すごいね。お腹の周りもすっきりしているしね。いいんじゃないの、可愛いお洋服が似合うわよ」
「そうですか?可愛い洋服似合いますか?」智子はそう文子に言われてちょっと嬉しくなった。帰りに時々買い物をするショッピングモールに寄って洋服を見ることにした。
何軒か見て回って、目に留まったワンピースがあった。じっと見ていると、店員が近寄ってきて、「お似合いになりますよ。試着されて見られたらどうですか?」と手渡された。
「いいのですか?」
「どうぞ、構いませんよ」
その誘いにのって、試着室で着替えた。やはり短い丈が気になった。
「ぴったりですよ。とてもかわいらしく見えます」
「短すぎないですか?足に自信が無いので」
「そんな事無いですよ。このぐらいがちょうどですから」
思い切って買った。それに合うミュールも買った。
家に帰ると娘が「お帰り!」と声を掛けてくれた。
「学校はどうしたの?」
「今日は午後から授業が取りやめになったから帰ってきちゃったの」
「そうだったの」
「あれ?お母さん買い物してきたの?」
「うん、ちょっとね。出かける用事が出来たから」
「ねえ、見せてよ。何買ったの?」
「ワンピースよ」
智子はテーブルの上に出して有里に見せた。
「うん、友達以上に感じているよ」
「お母さんはねあなたと同じ年に大好きだった人と結ばれたのよ。そのことを言わずにお父さんと結婚した。言う必要も無いって思っていたからね。昨日、あなたの彼の話になったときに、昔の彼のことを聞かれ、何故黙っていたんだって叱られたの」
「お父さんお母さんにそんなことを言ったの!信じられない・・・結婚する前のことなのに。お父さんだって付き合った人いたんでしょ?」
「多分お母さんが初めてだったと思うわ。付き合うことも」
「そう、だからそんなふうに考えたのね。有里はお父さんの誰にも渡したくないって言う気持ちも解らないではないの。父親ってそういうものだって聞くからね。でも、お母さんに対してそんな事言うのは失礼よ。夫婦として成り立たなくなっちゃうと思わなかったのかしら」
「思う人じゃないから、そう言ったのよ。時々辛い事言われていたけど、昨日は堪えた。お母さんね、ちょっと考えるから怒らないでね。あなたや高志のことは絶対に離さないから、心配しないで」
「お母さんどういう事?お父さんと離婚するって決めたの?」
「直ぐじゃないよ。そういうことも考えるっていうことなの。妻としてだけじゃなく女として否定されたら、一緒に暮らす意味も無いなあって感じたの」
「何を否定されたの?」
「お父さんとはもう何年も夫婦の関係が無いの。有里に話すことじゃないけど、同じ女として解ってもらえるかなあって思うから言わせてもらった。ゴメンねこんな話して」
「お母さん・・・悪いのはお父さんだよ!有里が今晩お父さんと話すから早まるのは止めてね」
「ありがとう。でも、これは私たち夫婦のことだからあなたに世話かけることは出来ないの。有里は心配しないで、学校に行って。お母さんは大丈夫だから」
「本当に?傍にいなくていい?今日は休めるから家に居るよ」
「本当にいいのよ。お母さんお話できる人がいるからその人に聞いてもらう。男の人じゃないから勘違いしないでね」
「うん、解った。じゃあ学校に行って来る」
「言ってらっしゃい!彼と仲良くするのよ」
「ありがとう」
有里が出て行った一人の部屋でゆっくりと熱いコーヒーを飲む。今までとは違う空気が家の中に流れていた。子供とはいえ同じ女なんだと有里には彼と幸せになって欲しいと願った。
その日の夜夫は帰ってくるなり、
「今日からおれの部屋で寝るから布団を入れておいてくれ」そう言った。
「私のことが嫌いになったの?」どうでも良かったがそう智子は尋ねてみた。
「当たり前だろう。朝起きてもこないようなお前を好きになれるか」
「それは、あなたに酷いことを言われて、眠れなかったからよ。好きでもないのに、好きになれないなんて言わないでよ」
「酷いことをしたのはお前のほうだろう。おれはずっと信じてきたんだぞ。おれだけだって言うことを」
「あなたは私のどこが好きになって結婚したの?教えて」
「純情なところだよ」
「私はあなたに対して純情じゃなかったの?何か気に入らないことしたかしら?」
「何が純情だ!他の男と寝たくせに・・・」
「あなたと付き合ってから、そうしたなら非難を受けるわよ。でも、付き合う前の事じゃないの!誰だっていい年になったら好きな人が居たり、恋愛したりしているのよ。違う?」
「恋愛はいいよ。好きになってもいいよ。寝ることは別だろう?結婚して責任とってくれる男と初めてそうなることが筋だろう?おれはそう考えていた」
「あなたは変よ。恋愛とセックスを別々に考えている。責任を取るって言うのは子供を作って育てると言うことなの?」
「それ以外にあるのか?」
「愛情表現よ」
「おれの金で生活をさせて、子供を結婚まで育てて行くことが愛情だと思えないのか?お前にとって愛情とは抱かれないと感じられないことなのか?」
「結婚ってあなたにとって生活をする場所を作るだけ?」
「何が言いたいんだ」
「私や有里のことは何んにも解ってないじゃない!」
「なにか不自由をさせたか?お金に困らせたか?買いたいもの買えなかったのか?言ってみろよ、もっと具体的に」
「もういい!とにかく有里の事は私に任せて。二人がしっかりと交際してゆくように見守るから」
「お前には任せられない。結婚前に身体を許すような女だからな」
「あなたは最低ね!何を言っているのか解ってるの?私にそんなことを言ってどうなるか考えたことがあるの?」
「どうなるって言うんだよ。言ってみろよ」
ここまでの話し合いで智子はもう結論を出していた。
しかし、今日は我慢をして自分が折れたように言葉を引いた。
「またゆっくりとお話しましょう。言い合いになるだけだから」
「朝はちゃんと支度しろよ、いいな」
「解ってますよ、言われなくても」
気持ちがいらいらして家事をやっていると失敗したり忘れ物したりするから、なるべく考えないように振舞っていた。子供たちにも余計な心配をさせたくなかったし、自分が落ち着いていればそれで済む、と今は気持ちを落ち着かせていた。
一月ほど経って文子からメールが来た。お茶をしようと言ういつものメールではなかった。自分が入っているカラオケグループの発表会があるから、是非予定を空けて見に来てくれるようにとの誘いであった。次のエアロビの帰りに文子からその返事を聞かれた。
「どう、来れそう?仲間内の小さな発表会だから服装なんかも気にしないで見に来てくれればいいのよ」
「解りました。出来るだけおしゃれをして見に行きますから。文子さんのお友達に恥じをかかせるような格好で行けませんから、大丈夫ですよ」
「ありがとう。みんな喜ぶわきっと。あなたみたいな若い人が見に来てくれたら、励みになるしね。それと最近少し痩せたわね。効果あったみたいね、エアロビが」
「そうなんです。急になんです。始めて一月は落ちなかった体重がこのところ5キロ減ったんです。ビックリなんですよ自分でも」
「そうなの!すごいね。お腹の周りもすっきりしているしね。いいんじゃないの、可愛いお洋服が似合うわよ」
「そうですか?可愛い洋服似合いますか?」智子はそう文子に言われてちょっと嬉しくなった。帰りに時々買い物をするショッピングモールに寄って洋服を見ることにした。
何軒か見て回って、目に留まったワンピースがあった。じっと見ていると、店員が近寄ってきて、「お似合いになりますよ。試着されて見られたらどうですか?」と手渡された。
「いいのですか?」
「どうぞ、構いませんよ」
その誘いにのって、試着室で着替えた。やはり短い丈が気になった。
「ぴったりですよ。とてもかわいらしく見えます」
「短すぎないですか?足に自信が無いので」
「そんな事無いですよ。このぐらいがちょうどですから」
思い切って買った。それに合うミュールも買った。
家に帰ると娘が「お帰り!」と声を掛けてくれた。
「学校はどうしたの?」
「今日は午後から授業が取りやめになったから帰ってきちゃったの」
「そうだったの」
「あれ?お母さん買い物してきたの?」
「うん、ちょっとね。出かける用事が出来たから」
「ねえ、見せてよ。何買ったの?」
「ワンピースよ」
智子はテーブルの上に出して有里に見せた。
作品名:「愛されたい」 第三章 家出と再会 作家名:てっしゅう