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クレイジィ ライフ

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prologue 血溜り池でハジメマシテ



「生きているとさあ、ツイてない日ってあるじゃん」

 アンタにとって今日はまさにそんな日だと、目の前の男が軽薄に笑う。日が昇らぬ未明の時間、偶然通りすがった路地裏のゴミ捨て場は、生ゴミが散らばり、錆臭い匂いが立ち込めている。
 膝下まであるロングコートに、複雑に紐が絡まったロングブーツ。蜂蜜色の髪には赤のメッシュが入っている。
 初対面の男は血がこびりついたバタフライナイフを、まるでおもちゃのように弄んでいる。立ち姿一つをとっても隙がなく、佇んでいるだけで肌を刺す威圧感が辺りに満ちている。
 その姿はまるで毒蛇のようだ。
 動きや見た目の異様さが、見る者に本能的な危険を感じさせるような。
 しかしなあ。通りすがりの青年Aは肩からずれた肩紐を揺すり上げながら思う。そんなことを冷静に考えている場合ではないと判断した。
 ゴミ溜めに広がった真っ赤な鮮血の上に複数の背広を着た元人間と思われる塊がごろごろと転がっていた。
 通り魔にしては倒れている人数が多すぎるところを見ると、計画性が透けて見えた。
 殺人鬼は目撃者を捕らえてニィと笑う。
 足元の蟻を捻りつぶす無邪気な子供のように、罪悪など露ほども感じていないような、残忍な微笑み。
「アンタは今日、かつてないほどツイていなかった。だから死ぬ。それだけの話だよ」
 付着していた血を払い、煌めくナイフを構えた相手に、青年はため息を吐きながら指を一本立てた。
「一つ、言いたいことがある」
「遺言を残したところで伝言しないよ。お届けサービスもない」
「違う。今の俺の状態だけ伝えておく。俺は今朝帰りですごく疲れている。思考能力が正常に機能していない」
 不運な通行人Aは肩にかけてあった肩紐を外し、中から白木の木刀を取り出す。
「頭はふらふらして、足元は雲の上でも歩いている気がする。だから」
 一瞬だけ刺すように向けられた殺気に殺人鬼が目を見開いたその隙に。
「間違って殺したら、済まない」

殺人鬼が昏倒した意識から浮上したのは、自分で作った血だまりの上だった。近づいてくるパトカーと救急車のサイレンで跳ね起きた彼は、ナイフを拾い上げて正に脱兎のごとく逃げ出した。

押さえきれない怨嗟を吐き捨てながら。
作品名:クレイジィ ライフ 作家名:ヨル