All must be as God will.
一個一個を確認できないほどに遠く離れているのに、
彼らの重い足取りと身にまとった甲冑のこすれる音が聞こえてくるようである。
「空も大地も紅い。あの黒い行列、何?」
千鳥の大きなガラスの瞳は遠くの紅を映して爛々と燃えてみえた。
「あれは聖都の軍隊さ、あんなにぞろぞろ引き連れて、これから西方の小さな国を囲みに行くんだ。」
フィルは強すぎる光にきゅっと目を細め、千鳥の肩にやさしく手をかけた。
「じきに戦争が始まる。そうすればここら一帯は軍の出入りが頻繁になるでしょうね。ひと月ほどかけてなるべく遠くへ移動しましょう、まずは今夜、夜にまぎれて近くの都市へ・・・」
「ずっと南にまだ開拓できる大きな鉱山がある。遠く回り込みながらこちらを目指そう・・・」
アリスと慶安は巨大な地図を焼け始めたボンネットに広げ旅の行方を定める。
「途中聖都へ寄って病人を拾うのを忘れるな。」
フィルは注文を付けながら荷物を山ほど積んだ狭い後部座席に堅い尻をねじ込んで読みかけの分厚い本を開いた。
千鳥の席はすでに荷物でいっぱいで、その上に柔らかくて厚い布をかければ彼の特等席が出来上がる。
千鳥は軽やかな足取りで席に着いた。
「なぁ、文学者さんよ、くっそ重たい本の山なんとかしてくれないかな」
荷物の重さに重心が傾いている愛車を嘆きながら慶安は助手席に腰をおろしてナビゲーターを操作した。
ギシギシと聞き入れられない悲鳴を上げるおんぼろの車は道端に投棄されていたものを慶安が手入れしたもので、
見かけはボロだが中身は最先端のコンピューターを積んでいる。
しかしあまりの荷物の重さと度重なる長距離走行にそこかしこにガタがきはじめていた。
荷物の大半を占めるのはフィルが旅の途中で買い漁る本で小難しい文献から恋愛物語まで様々だ。
「気にするな、いつもの事だろう。淡月と合流の際に読み終えたものは書庫に仕舞うさ。」
大切に包まれた本を愛おしげに眺め、呟くとまた手元の文章に目を落とした。
「さて、一番近くの都市まで一晩で着けるでしょうか。」
長身を無理にちぢこまらせながら運転席に収まったアリスはエンジンをふかしながら、ナビをいじる慶安に尋ねた。
慶安は肩をすくめただけで何も言わずナビを指さす。
地図では平坦に見えた道のりは険しい谷でできており、夜道を行けるほど簡単ではなさそうだった。
「いけるとこまで行きますか、」
アリスは強くアクセルを踏み込む。
おんぼろ車は夕日を横目に見ながら軽快に動き出した。
作品名:All must be as God will. 作家名:とめ