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【中身見本】Innocent World

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2章


「――けっこういいオフィスじゃないか」
キィとドアが開く音がして、背後から声がかかる。

振り向くとドラコは何の躊躇もなく中へと、身を滑らすように入ってきた。
少し興味深そうな表情を浮かべたまま、部屋全体を見回している。
めったなことではマグル界にやってこない彼は、こういうオフィスに入ることもきっと初めてなのだろう。

すらりとした細身のからだに上質なスーツ。
洗練された立ち振る舞いからは、彼の上流階級特有の育ちのよさがにじみ出ていた。
銀色に近いプラチナブロンドは軽く後ろへと流されている。
アイスブルーの冷たい瞳はひどく整いすぎている、きつい外見によく似合っていた。

ハリーは観念して、もう肩をすくめるしかない。
「かなり早い到着だね。ここにはフルーパウダーを使える暖炉なんかないのに」
「……まぁね……。いろいろと幅広いコネがあるんだ。隠されてはいるけど、思わぬ場所にいろんなトンネルが魔法界とロンドンを繋いでいて、極秘に移動ができるんだ。――まぁ、普通の魔法使いには使えない。これが使えるのはごく限られた一部の選ばれた人だけだ」
「ふーん……。君が通ってきたというそれは、特権階級限定のスペシャルでアッパークラスなトンネルなんだろうね。――で、そのトンネルの天井は豪華なシャンデリア付きかい?床はふかふかの赤いカーペットでも敷いて、さぞかし居心地がいいんだろうね?」
ハリーが当てこすりのような嫌味を言うと、
「それはまだない。だけど、なんならその案を予算会に進言してもいいよ。カーペットもしシャンデリアも僕が言えばすぐ通るだろうね。魔法界での僕の発言力の大きさなら、君もよく知っているはずだろ?」
ドラコはニヤッと笑って余裕で嫌味で返した。

ハリーは引きつった顔のまま、無理に笑顔を浮かべる。
「ほんとーに感謝しているよ、マルフォイ。僕がこのマグルの世界で暮らしていけるのも、みんな君のおかげだよ。ありがとう!」
「そんな大層なこと僕はしていないよ。君がこの世界で仕事を続けているのは、すべて自分の努力じゃないか。謙遜することはない」
そう言いながらも笑って、まんざらでもない顔でハリーを見つめる。

「何かマグル界で困ったことはあるかい、ハリー?」
「別に今はない」
スーツのまま肩をすくめた。

少しつっけんどんなその態度に、ドラコはすうっと目を細める。
「遠慮するな。何でも言ってくれ。僕が出来ることであれば、何でも力を貸そう」
「タダじゃないくせに」
ぼそりと告げると、じっと相手を見つめたままドラコは唇の端を上にあげた。
「もちろんさ……。世の中のものは全部に値段がついているんだ。人の理はすべて等価交換だ。当たり前じゃないか。何を今さら……」

シニカルな笑みを浮かべたままドラコは、さも当然だという素振りで答えると、着ていた上質なカシミアの白いコートを脱ぎ、バサリと無造作に手前の椅子へと放る。
「そんなところに引っ掛けると、せっかくの白が汚れるよ。壁のところに来客用のハンガー掛けがあるけど」
「あとは君にまかせる」
ドラコはゆっくりと部屋の奥の大きめのデスクへ向かって歩き出した。

(ああ、そうですか。ハイハイ、また雑用は僕ですか…)
と、ぶつぶつと聞こえない独り言を言いつつ、ハリーは椅子のコートを手に持ち、何度か振って軽くホコリとシワを払いハンガーへ吊るす。
「ついでに、手袋もポケットに入れておいてくれ」
「りょーかい」
投げられたそれを受け取ると、内ポケットにねじこんだ。
コートは軽くてしなやかで手触りも申し分なく、かなり高価なものにちがいない。 

「このコートが今、魔法界の最新ファッション?」
窓際の一番座り心地がいい椅子に腰を下ろし、ドラコはふんぞり返ったように座り込むと、高く足を組んだ。
「いや、ただ単に勧められたからそれにしただけだ。―――オーダーメードだから、流行かどうかは知らないな…」
服のことには興味なさげな口調で返事を返す。

「フン」ハリーは小さく鼻を鳴らした。
デスクの上の筆記用具を手に取って眺めていたドラコは顔を上げる。
「―――いったい何だ、ハリー?」
形のいい眉かピクリと動いた。
「いや、君らしいと思っただけだよ。他意はない」
「へぇー……。今日はやけに僕に突っかかってくるじゃないか。言いたいことがあれば、遠慮せずに何でも言えばいい」
ドラコは手に持っていたものを机に戻すと、にっこりと優しい笑顔を浮かべた。

こういうときの彼の笑顔はかなり怖いものがある。
低く静かに腹の底で怒っているのが、その周りの空気からも伝わってくるからだ。
ハリーは居心地悪そうに咳払いをして、ちらりと相手を見てまた視線を外す。
何度もそれを繰り返して、小さく肩を揺すってうつむき、整髪剤をつけても落ち着きが無い自分の髪を意味もなく掻きあげたりした。
ドラコはじっとそんな挙動不審なハリーの行動を、瞬きもせずに見つめる。

「うー……、あー……。ええっと、ごめん。僕が言いすぎた―――」
謝りの言葉に尊大な顔で頷いて、ドラコは自分の前でゆったりと指を組み合わせて、言葉を続ける。
「――もし僕との契約が気に入らないなら……、君は魔法界に戻ればいいじゃないか、ハリー。あの世界で君は今とは比べ物にならないほど、望めば何だって手に入る地位にいるだろ?それに戻ってくるだけで、「ああ英雄様のご帰還だって」みんな諸手を上げて、大喜びするはずだ。夢のような豪華な住まいも、たくさんの召使も、金も、美女も思いのままだ。酒池肉林で、男だったら誰でも憧れるパラダイスじゃないか、魔法界は―――」
ドラコは床を蹴って、少しだけ椅子を回す。

「―――そんな桃源郷のような世界を振ってまで、帰ってきたかったほどすばらしい世界なのかい、このマグル界は?」
広いけれど乱雑に資料が詰まれているオフィスにふたりはいた。
「僕にはそうは見えないけど…」
と付け足しつつ、チラリとハリーを見上げる。

ふて腐れたようにズボンのポケットに手を突っ込んだまま、ボソリとハリーが答えた。
「僕はむかしからダンスは下手だった。君も知っているだろ?」
ドラコは指を額にあてて少し何かを考え、「ああ、あれか…」と小さくつぶやく。

「たしかにあのクリスマスパーティーで、女の子と踊っていた君のステップは最高だったよ。あんなにイケてないダンスは初めてみた。でもあれはまだ僕たちが十四歳のティーンエイジャーの頃の話じゃないか。あれからもう十年以上はゆうに経っているのに、何で今更持ち出してくるんだ?」

ハリーは眉間にしわを寄せたまま首を振る。
「ところが、今でも僕はそれが苦手ときている。ろくに踊れないし、相手の足は踏んづけるし、ステップを踏むたびに後ろのカップルにぶつかり、ターンをすると今度は横の人と肩が当たる。あんな疲れることは、二度としたくない」
ふぅー…と短いため息をつき、苦渋の顔でさらに深く眉間にしわを寄せた。

「それと魔法界を捨てたことの共通点が、僕には分からないな」
ドラコは相手のめったに見ることが出来ない困りはてた顔を面白そうに見上げて、上機嫌で問う。
作品名:【中身見本】Innocent World 作家名:sabure