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ワンルーム☆パラダイス

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【付録4】突発・天パおっさんとアルアル少女のターン☆



+++

彼岸は過ぎたが、空には夏の日差しが照らす。灼けた砂浜を渡る風が男の撥ねた銀髪を薙いだ。
「……、」
片肌脱ぎの着流しに古びた藤編みの籠を提げ、額に手をかざした男は遠く波の彼方に目を細めた。
「サンドイッチ、好きだったんだよね」
砂に残る足跡を踏んで、男の後ろをついて来ていた日傘の少女がぽつりと訊ねた。
「――ああ、」
立ち止まらず男は頷いた。
「……いや、」
胸に受ける海風にまとわりつくような湿度は感じられない。男は薄く汗の滲む立て襟の首元に手をやった。
「俺が一時期やたらと凝って作りまくってたから、ウマイウマイって食ってくれてただけかもしんねぇな、」
籠を提げた男の肩が自嘲気味に揺れた。日傘の下で少女は呟いた。
「……それが好きってことあるヨ」
――ザザーン、少女の結い上げた赤毛の耳元で波が鳴った。少なくとも少女にはそう聞こえた。
「……は?」
――ナンか言ったか、気怠そうに頭を掻いて男が振り向いた。
「……、」
――ウウン、少女は力いっぱい、丸いおだんご頭の首を振る。それから、ツーステップで男の脇を陽気にすり抜け、まっさらの白い砂地に自分の行き先を駆け足に刻んでいく。
「あんまチョーシこいてっと転ぶぞー、」
少女の背中に遠くなった男の声が呼びかけた。日傘を掲げ、半身を捩って少女は叫ぶ、
――へへーっんだ、誰かさんみたくみそじのオッサンじゃないもんねーーーっっだ!
(……、)
菫色の瞳で前を向いて、キッと唇を噛み締めて、――ナンだろうなァ、なんでこんなにしょっぱいんだろ、そりゃ海だからさーって、それだけでこんなにノドの奥も目も鼻もよーしゃなくキンキンするもんだろーか、日傘を肩に、七分丈の華奢な足元で少女はひたすら浜を駆ける。
やわらかい砂地に足がもつれて倒れて転んで、それでぜんぶそのせいにして、わぁわぁ泣いてしまえたらいっそラクになれるんだろーか、そんな風に思いもしたけど、思っただけでやっぱりそれも何かが違う。何が違うのかはわからない。わからないまま走って走って、余計に考えはまとまらなくて、ますますわからなくなってまた走る。
結局少女は砂浜のいちばん端っこの、険しい岩場になっていてそれ以上は進めないところまで全速力で駆けて来ていた。
(……。)
やろうと思えばできたけど、さすがに岩ブチ抜いてまでランニングコース延長すんのはどーよと理性で引き返して、――いや待てよ、ちょっと行ったところで少女はいっぺんトテトテ引き返した。突き当たりの岩に張り付いていたナゾの海藻をベリッとひと房ひっぺがして、それから来た道を揚々と駆け戻る。
「……つかどんだけ足腰鍛えてーんだよオマエ」
潮風を受けて浜に腰を付けていた男が、呆れたように少女を見上げた。
「ハイ、」
日傘片手に呼吸ひとつ乱さないまま、少女はおみやげの海藻を差し出した。
「……」
少女の顔と手元を交互に眺め、男は無言で眉を顰めた。
すうっと手を引いた少女は、――あとで押し海藻にしてしおり作るんだ、だから帰りにかわいーやつリボン買ってね、男の隣に並んで腰を降ろした。
「……百均しか寄らねぇぞ」
ぼそりと吐いて男が言った。
「ひとっ走りしたらおなかすいたネ」
――ふぅ、海を眺めて少女は息をついた。
「――ほらよ、」
少女が折り畳んだ足先に男が例の藤籠を置いた。
「足りるか知んねーけど、あるだけ全部食え」
半分口を歪めて笑いながら、半分は投げやりみたいに男が言った。
「……。」
――ウン、少女は頷いた。膝を伸ばして腿に籠を据え、くすんだ金属の留め具を上げると、乾燥避けの晒しの下に三段重ねの籠いっぱい、色とりどりのサンドイッチがギュウギュに詰まっている。
「いっただっきまぁーーーっっす!」
少女は摘み上げた三角カットのハムサンドをひと口に頬張った。
(――、)
噛み締めてじゅわっと滲み出すバターの香りと抑え目のマスタード、……ウン、マーガリンで代替妥協することを潔しとせず純正バターにこだわって予算フンパツしたために結果皺寄せでPBの安っすい食パンと徳用の特売品似非ボンレス(プレス)ハムによる些か迫力に欠けるコンビネーションではあるが、これはこれでお上品なロースハムともがっつりジューシーカツレツとか王者の風格・ローストビーフとはまた違う、古き懐かしき時代の気配漂うプレスならではの、アリな趣と邪険にできない健気な奥ゆかしさがある。
「……、」
薄い継ぎ接ぎ肉の醸す旨みを、少女は頑丈な奥歯によぉっくはむはむ反芻して、タマゴもキュウリもいちごジャム&ピーナッツバター(一時期ハマっていた海外学園ドラマの学食の定番メニューをリクエスト)もカサ増しのポテトサラダもひとつ残らず胃に収めた。
〆は紙コップに注いでもらったやつに家賃滞納の言い訳がてらまだむの店で手癖にガメてきたらしいガムシロポーションダボダボのアイスコーヒー、――うーんオトナの味ですなァ、せいいっぱい背伸びしたコメントを、隣で無理して(だと少女はちゃんと知っている)水筒まんまのブラックストレートをちびちびやっていた男に鼻で笑われたこと、ぜったい今日の日記に書いといてやるんだもんね、浜風に煽られながら憤慨する少女は固く心に誓うのであった。


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