表と裏の狭間には 九話―穏やかな日常―
俺は久々に、アーク関東支部の拠点に向かった。
というのも、暇をもてあました俺は、ゆりたちと駄弁ろうと思ったのだが。
有閑倶楽部(学校の部活名だ)の部室には、『今日はSOS団の活動!』と書かれた紙があった。
SOS団……すっかり隠語として定着しつつあるな。
という訳で、俺は拠点に向かっているのである。
アークの拠点に向かう道すがら。
俺は少し前のことを回想する。
あの日。
文化祭最終日。
『もしよろしければ、私と付き合っていただけませんか?』
そう問われた俺は、回答に詰まった。
俺や蓮華の名誉のために詳細は省くが。
色々と話をし、そして、付き合うことになった。
いや。
付き合うことにした。
………何か違うな。
付き合おうと、決めた。
そんなわけで、今俺と蓮華は交際中だ。
といっても何か特別なことがあるわけでもなく(そんなすぐにイベントは発生しない)、平穏な日常を送っている。
……雫には、まだ話してない。
そのうち、折を見て話すつもりだ。
ともあれ。
俺の日常は、今も順調に平穏だ。
そのはずだ。
部屋に入る。
「あら。来たの。」
「まあ、暇だからな。」
ここに来るのは本当に久しぶりだ。
空いていたソファに座ると、理子がお茶とお菓子を持ってきた。
「へい紫苑!飲め!食え!」
「今日もテンション高いなー………。」
「ちなみに高濃度の媚薬入り。」
飲みかけていた紅茶が入っていたカップを音高くコースターに叩きつける。
「テメェはぁ……………!!」
「アハッ、冗談冗談!高濃度のなんて入れたら危険だし。」
「そうか。」
「でも少しは入ってるよん。」
「お前俺をどうしたいの!?」
「大丈夫よ、紫苑。理子は別にそんなもん入れてないわ。」
「いや、分かってるよ。分かってはいるんだけどさ。なんかこいつ本気でやりそうで怖いんだが。」
「…………うん、まあ、気持ちは分かるわ。」
ゆりも俺に賛成のようだった。
まあ、ゆりがそう言うのなら大丈夫なのだろう。
「しっかし、最近は本当に平和だな。」
俺は、ここ最近ずっと思っていたことを口にする。
「ほとんど何も起こらない。こんな平和でいいのか?」
「まあ、紫苑の疑問も最もなんだけどね。ここ最近は、あちら側があたしたちのことを警戒しだして、行動を抑えているのよ。」
「ふ~ん。」
適当なやり取りをしながら紅茶を飲む。
「その代わりと言ってはなんだけど、暴力団と違ってあたしたちのことを知らないチンピラが最近活発になってきてね。まあ、武装して出向くまでもないからそこまで本腰入れて取り組んでるわけでもないんだけど。暴力団が潜ったらチンピラが沸いたってワケ。」
「なるほどな。」
普段は暴力団によって抑圧されているチンピラが、その箍が外れて大騒ぎってわけか。
「だから、夜の街は危ないわよ。暴力団は分別があるけど、チンピラはその辺全然弁えないからね。一長一短ってやつよ。」
暴力団は武装しているが、分別がある。
反対にチンピラは雑魚だが、分別も何もあったもんじゃない、と。
確かにな。
俺だけならともかく、雫と一緒の時に絡まれると厄介だよな。
「まあ、夜間の外出は控えるようにするよ。」
「賢明ね。まあ、こっちでも出来る限りのアプローチをしてるんだけどね。」
「そうなのか?」
「アークは、間接的に一部の不良を支配下に置いているのよ。」
それは初耳だ。
「例えば煌がそうよ。うちの学校の不良のトップは煌だもの。そんな風に支配下に置いてる不良や暴走族を使って、今チンピラを制圧してってるの。時間の問題よ。」
「そうか………。」
言いたい事は色々あるが。
煌たちが恨みを買うんじゃないかとか、俺たちみたいなのならともかく『一般人』の暴走族や、果ては学生まで巻き込んでいいのか、とか。
とはいっても、俺が口を出せる問題じゃないだろうしな。
「俺達の班は何もしないのか?」
「そうね。じゃあ、仕事が一つ降りてきてるから、ついでに片付けちゃおうか。」
盛大に墓穴を掘った感は否めない。
いや、藪から蛇か。
で、その『仕事』とは。
「街でたむろしてる集団を一つ潰すわよ。」
「今からか!?」
「ええ。すぐ終わるわよ。」
あっさりと。
「わっち、この仕事が終わったら紫苑と結婚するんだ……。」
「安っぽいフラグを立てるな。あと相手は俺以外の誰かにしてくれ。」
「私、これが終わったらお姉様と結婚するの……。」
「……………。」
「紫苑こっちにもちゃんとツッコミなさいよ!」
「うん、まあ、日本で同性間の結婚って無理じゃねぇか?」
「そんなことより、だ。」
馬鹿みたいなやり取りを煌が収束させる。
「今回の作戦はどうすんだ?」
「そうっすねー。」
輝が答える。
「警察にしょっ引いてもらうのが手っ取り早いっすね。誰かが襲われて、その証拠を記録した後制圧、警察に通報ってところっすかね。」
「それでいくわ。証拠の確保は耀、襲われるのは……………。」
「ま、オレだわな。」
煌がこともなげに言う。
「煌。どんなにカチンと来ても、殺しちゃいけないわよ。」
「心配するポイントそこ!?」
「煌がやられる心配は無いわよ。こいつ超強いし。」
「まあ、そうなんだろうけどさ………。」
やっぱこいつらどっかずれてるよな。
「じゃあさっさと済ませて、晩御飯でも食べましょうか。Operation start !」
いやそれ違うから。
今気付いた。
煌と耀以外はアークの正装、つまり黒い作業服と黒いガスマスクを装着している。
そんな連中が、喧嘩中の不良を粛々と制圧する………。
不気味だ。
さて。
不良がたむろしているという路地の入り口に、バンが止められた。
私服姿の煌が出て行き、路地の奥に消える。
耀は先に配置済みだ。
さて。
「で?この後どうするんだ?」
「しばらくしたら耀から端末に連絡が来るわ。そしたら突入、閃光爆弾(フラッシュグレネード)で視界を奪って気絶させ、捕縛。そして撤収。」
「うわ、えげつないなオイ。」
「それが一番手っ取り早いでしょ。」
「でもさ、連中を警察に引き渡した後、何か問題になったりしないのか?」
「問題?」
「俺たちがいたって証言されるだろうが。」
「それはないっすよ。」
「どういうことだ?」
「まず僕らはこんな服に身を包んでるわけっすし。連中以外に目撃者も監視カメラなどの記録メディアもないっすし。発砲とかしなきゃ証拠も残らないっすし、視界を奪って気絶させた後煌が捕縛すればいいんすよ。煌が捕縛している様子も写真に収めちまえばいいっすし、そのデータが入ったカードをここに放置しておけば何とかなるっすよ。後は煌が適当に証言して、一件落着っすよ。」
そんなものなのか。
なんて話していると、ゆりの端末が、『ピピピ』と音を鳴らした。
「合図よ。突入!」
事前に、『目を閉じなさい』と言われていた俺たちは目を閉じる。
すると、『ピン』という音と、『カラン』という音がしたと思ったら、瞼の裏からでも視界が白く染まった。
目を開けると、チンピラと思しき連中は目を押さえて苦しんでいた。
そのまま、ゆりたちは手際よくチンピラたちを昏倒させていく。
ゆりは煌の肩をポン、と叩くと、俺たちに撤収の合図をする。
というのも、暇をもてあました俺は、ゆりたちと駄弁ろうと思ったのだが。
有閑倶楽部(学校の部活名だ)の部室には、『今日はSOS団の活動!』と書かれた紙があった。
SOS団……すっかり隠語として定着しつつあるな。
という訳で、俺は拠点に向かっているのである。
アークの拠点に向かう道すがら。
俺は少し前のことを回想する。
あの日。
文化祭最終日。
『もしよろしければ、私と付き合っていただけませんか?』
そう問われた俺は、回答に詰まった。
俺や蓮華の名誉のために詳細は省くが。
色々と話をし、そして、付き合うことになった。
いや。
付き合うことにした。
………何か違うな。
付き合おうと、決めた。
そんなわけで、今俺と蓮華は交際中だ。
といっても何か特別なことがあるわけでもなく(そんなすぐにイベントは発生しない)、平穏な日常を送っている。
……雫には、まだ話してない。
そのうち、折を見て話すつもりだ。
ともあれ。
俺の日常は、今も順調に平穏だ。
そのはずだ。
部屋に入る。
「あら。来たの。」
「まあ、暇だからな。」
ここに来るのは本当に久しぶりだ。
空いていたソファに座ると、理子がお茶とお菓子を持ってきた。
「へい紫苑!飲め!食え!」
「今日もテンション高いなー………。」
「ちなみに高濃度の媚薬入り。」
飲みかけていた紅茶が入っていたカップを音高くコースターに叩きつける。
「テメェはぁ……………!!」
「アハッ、冗談冗談!高濃度のなんて入れたら危険だし。」
「そうか。」
「でも少しは入ってるよん。」
「お前俺をどうしたいの!?」
「大丈夫よ、紫苑。理子は別にそんなもん入れてないわ。」
「いや、分かってるよ。分かってはいるんだけどさ。なんかこいつ本気でやりそうで怖いんだが。」
「…………うん、まあ、気持ちは分かるわ。」
ゆりも俺に賛成のようだった。
まあ、ゆりがそう言うのなら大丈夫なのだろう。
「しっかし、最近は本当に平和だな。」
俺は、ここ最近ずっと思っていたことを口にする。
「ほとんど何も起こらない。こんな平和でいいのか?」
「まあ、紫苑の疑問も最もなんだけどね。ここ最近は、あちら側があたしたちのことを警戒しだして、行動を抑えているのよ。」
「ふ~ん。」
適当なやり取りをしながら紅茶を飲む。
「その代わりと言ってはなんだけど、暴力団と違ってあたしたちのことを知らないチンピラが最近活発になってきてね。まあ、武装して出向くまでもないからそこまで本腰入れて取り組んでるわけでもないんだけど。暴力団が潜ったらチンピラが沸いたってワケ。」
「なるほどな。」
普段は暴力団によって抑圧されているチンピラが、その箍が外れて大騒ぎってわけか。
「だから、夜の街は危ないわよ。暴力団は分別があるけど、チンピラはその辺全然弁えないからね。一長一短ってやつよ。」
暴力団は武装しているが、分別がある。
反対にチンピラは雑魚だが、分別も何もあったもんじゃない、と。
確かにな。
俺だけならともかく、雫と一緒の時に絡まれると厄介だよな。
「まあ、夜間の外出は控えるようにするよ。」
「賢明ね。まあ、こっちでも出来る限りのアプローチをしてるんだけどね。」
「そうなのか?」
「アークは、間接的に一部の不良を支配下に置いているのよ。」
それは初耳だ。
「例えば煌がそうよ。うちの学校の不良のトップは煌だもの。そんな風に支配下に置いてる不良や暴走族を使って、今チンピラを制圧してってるの。時間の問題よ。」
「そうか………。」
言いたい事は色々あるが。
煌たちが恨みを買うんじゃないかとか、俺たちみたいなのならともかく『一般人』の暴走族や、果ては学生まで巻き込んでいいのか、とか。
とはいっても、俺が口を出せる問題じゃないだろうしな。
「俺達の班は何もしないのか?」
「そうね。じゃあ、仕事が一つ降りてきてるから、ついでに片付けちゃおうか。」
盛大に墓穴を掘った感は否めない。
いや、藪から蛇か。
で、その『仕事』とは。
「街でたむろしてる集団を一つ潰すわよ。」
「今からか!?」
「ええ。すぐ終わるわよ。」
あっさりと。
「わっち、この仕事が終わったら紫苑と結婚するんだ……。」
「安っぽいフラグを立てるな。あと相手は俺以外の誰かにしてくれ。」
「私、これが終わったらお姉様と結婚するの……。」
「……………。」
「紫苑こっちにもちゃんとツッコミなさいよ!」
「うん、まあ、日本で同性間の結婚って無理じゃねぇか?」
「そんなことより、だ。」
馬鹿みたいなやり取りを煌が収束させる。
「今回の作戦はどうすんだ?」
「そうっすねー。」
輝が答える。
「警察にしょっ引いてもらうのが手っ取り早いっすね。誰かが襲われて、その証拠を記録した後制圧、警察に通報ってところっすかね。」
「それでいくわ。証拠の確保は耀、襲われるのは……………。」
「ま、オレだわな。」
煌がこともなげに言う。
「煌。どんなにカチンと来ても、殺しちゃいけないわよ。」
「心配するポイントそこ!?」
「煌がやられる心配は無いわよ。こいつ超強いし。」
「まあ、そうなんだろうけどさ………。」
やっぱこいつらどっかずれてるよな。
「じゃあさっさと済ませて、晩御飯でも食べましょうか。Operation start !」
いやそれ違うから。
今気付いた。
煌と耀以外はアークの正装、つまり黒い作業服と黒いガスマスクを装着している。
そんな連中が、喧嘩中の不良を粛々と制圧する………。
不気味だ。
さて。
不良がたむろしているという路地の入り口に、バンが止められた。
私服姿の煌が出て行き、路地の奥に消える。
耀は先に配置済みだ。
さて。
「で?この後どうするんだ?」
「しばらくしたら耀から端末に連絡が来るわ。そしたら突入、閃光爆弾(フラッシュグレネード)で視界を奪って気絶させ、捕縛。そして撤収。」
「うわ、えげつないなオイ。」
「それが一番手っ取り早いでしょ。」
「でもさ、連中を警察に引き渡した後、何か問題になったりしないのか?」
「問題?」
「俺たちがいたって証言されるだろうが。」
「それはないっすよ。」
「どういうことだ?」
「まず僕らはこんな服に身を包んでるわけっすし。連中以外に目撃者も監視カメラなどの記録メディアもないっすし。発砲とかしなきゃ証拠も残らないっすし、視界を奪って気絶させた後煌が捕縛すればいいんすよ。煌が捕縛している様子も写真に収めちまえばいいっすし、そのデータが入ったカードをここに放置しておけば何とかなるっすよ。後は煌が適当に証言して、一件落着っすよ。」
そんなものなのか。
なんて話していると、ゆりの端末が、『ピピピ』と音を鳴らした。
「合図よ。突入!」
事前に、『目を閉じなさい』と言われていた俺たちは目を閉じる。
すると、『ピン』という音と、『カラン』という音がしたと思ったら、瞼の裏からでも視界が白く染まった。
目を開けると、チンピラと思しき連中は目を押さえて苦しんでいた。
そのまま、ゆりたちは手際よくチンピラたちを昏倒させていく。
ゆりは煌の肩をポン、と叩くと、俺たちに撤収の合図をする。
作品名:表と裏の狭間には 九話―穏やかな日常― 作家名:零崎