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殺生――『今昔物語』より

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 王某の家は妻と子供が五人という、その時代には珍しい、小規模なものでございました。驃騎将軍としての職務は大事でしたが、週に二、三度の狩りと職務以外の時間は家にいらっしゃいまして、妻や子供たちの感情を慰撫なさっておいででありました。
 ある時――というより、最近、頻繁にその気味が強まっているのでしたが――将軍は妻に、このように仰いました。「我が子は五人もいるのに、一向、女の子が授からない。もう私たちには無理なんだろうか?」
 妻の阿玲は表情を曇らせます。
「そういうものは巡りあわせが関係しますわ」
 妻の阿玲はみめうるわしい女人で、王某に嫁ぐまでは、求婚者の数は両の指では足りないほどでした。そもそもこの阿玲という方は、顔形が涼やかで身なりも整っている男には見向きもせず、かといって、才知に長けた男もなんだか狐のように思われて気持ち悪いといって退けられていたのでした。そんな阿玲が王某様に嫁ぐことを決められたのは、何が原因してのことであったのか。それはひとえに、お父様の影響であったと世間では噂されております。彼女は、父に愛されて育ちました。阿玲は兵部の隊長であった父から、こんな勇猛の士がいると聞かされて、その話に出てくる男を思慕するようになっていったのです。父からとも阿玲からともわからないのですが、自然、王某と会うという段取りが決まって、それからはトントン拍子に話が進み、結婚ということになったのです。
 阿玲は夫の言葉を待たずに次の言葉を述べます。
「狩りはそろそろおやめになられた方がよろしいのでは?」
 それをお聞きになった王将軍は眉間にしわをお寄せになります。
「狩りをやめろということは、わしに死ねといっているようなものだぞ」
 王将軍はお怒りになるとまではいかないにせよ、とうてい受け入れがたい意見だと、妻の言葉をお斥けになります。
「しかし、山野を出歩いていると、危険な動物もございましょう? 狼やら虎やら」
「そんな生きものと出くわす確率なんて低いよ。でも、虎は一度でいいから倒してみたいものだ。ところで、虎の肉は美味いんだろうか?」
 冗談交じりにそんなことをいう夫を見て、阿玲は肩をすくめます。
「くれぐれもお気を付け下さいましね」それが阿玲のいえる精一杯の言葉でした。
 そんな阿玲が産気づいたのは、それから半年もした寒い冬のことです。
 食事中に気分が悪いといって席を離れた阿玲をご心配になられた王将軍は、戻ってきた妻から、妊娠の兆候が見られる、と告げられ、たいへんお喜びになりました。待望の娘か、それとも息子か、産まれないことにはわからないことですが、将軍はその日を楽しみにお待ちになるのでした。

作品名:殺生――『今昔物語』より 作家名:蒼幻