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天使と悪魔の修行 前編

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 ここは、地球から遥かかなたの神の国です。
 ここでは美しい花々が恒久の時の中で咲き続け、湖には美しい空が優しく微笑み、湖面は照れながら煌いています。

「あらぁ~、やっぱり私って美しいわぁ♪」
 そう言いながら一人のエンゼルが、その湖に自分の姿を映しながら頭の上の環っかを右手で直していました。

 彼女の名前は¥ジェル〔えんじぇる〕。
 人間に例えるなら、その見た目は幼稚園児くらいかな。でも実際には、この世界ではすでに数百年を生きています。

 彼女は薄ピンクのウエストがキュッとしまった可愛いミニのドレスを着て、手には先っぽに☆がついた短い杖を持っています。その足元は、周囲を小花柄のレースでぐるっと縁取った白いバレーシューズのようなデザインの、光沢のある靴を履いています。

 そんな彼女は、いつかきっと大天使ミカエル様のようになりたいと、日々天使の修行を積んでおりました。

 今、彼女はその修行の休憩中で、学校の近くのこの湖に来て、自分の姿に見惚れていたのです。

 そこへやってきたのは、学校の修行者クラス「リスティン」の同級生、悪魔のあっく魔くんです。みんなからはあっくんと呼ばれています。

「¥ジェルちゃん そこで何してるんだい?」
「なあーんだ、誰かと思ったら悪魔の卵のあっくんか……」
 
 ¥ジェルちゃんはそう言うと、プイッと視線を逸らせました。

「なあーんだってことはないだろう? 自分だって天使の卵のくせにぃー」
 そう言うと、あっくんはプクッと頬を膨らませました。
「そんなことより、何か私にご用なの?」
 ¥ジェルちゃんは少しだけ笑顔を見せて言いました。

「うん。そうだった! 先生が次の宿題を出すから教室に集まるようにってさ」
「あらぁ~また宿題なのぉ。参っちゃうなぁ……」
「ヨーフル先生ってさ、宿題がきちんとできないと面倒な罰を出すからいやなんだよなぁ」
「そうそう! この前なんて、愛のキューピットの弓矢を持ってきて、『敵同士みたいに喧嘩してる二人を恋に落としてきなさい』なんて言うのよ。私、地上に降りて、そういう二人を探し出すだけでどれだけ大変だったか……」
 思い出したように¥ジェルちゃんは大きな溜息をつきました。

「そんなのはまだいいさ。おいらなんて、愛し合う二人を引き裂くように命じられたんだぜ。これがなかなか骨が折れるんだ。人間ってさ、案外としつこいんだよなぁ。いつまでも別れた相手のことを忘れられないみたいで……」

 人間界では、天使と悪魔はまったく別の世界に住んでいると思っているようだけど、実際には大いに違っていて、どちらも神の国の住人なんです。

 ただ、一人前の天使や悪魔に成長すると、定められた領域でそれぞれの神の指導の元に暮らしていくんです。

 しかし一人前になるまでは、天使も悪魔も一緒に修行を受けます。もちろん修行の内容はまったく違う――というより真逆のパターンが多いんだけどねっ。だからある意味、修行の課題を実践する際には、お互いがお邪魔な存在だったりもするわけなんです。ちょっと違う意味でのライバルかな? うふふっ。

 そんなわけで、二人は仲が良いような悪いような複雑な関係なんです。

「さあ、早く行こうぜ! でないとおいらまで怒られちゃうよ」
「あ、ごめんごめん」

 そう言うと二人は一緒に飛び上がって、空をまっしぐらに教室に向かって飛んでいきました。

 ¥ジェルちゃんは背中に小さな白い羽根がついています。
 あっくんは、やはり背中に¥ジェルちゃんより少し大きめの黒い羽根がついていて、それはコウモリの羽根によく似ていました。

 二人が羽根を急いでバタバタさせて教室に着くと、ヨーフル先生が待ちくたびれていました。

「二人ともお帰り。いったいどこまで遊びに行ってたの? みんなが待ちくたびれてますよ」
 ヨーフル先生はそう言うと、「ねぇ~」と言うように教室のみんなの方へ向いて同意を求める視線を送りました。みんながうんうんと頷きます。

「ヨーフル先生ごめんなさい。ドリーム森のナルシスの湖まで行っていました」
「まあ、またあの湖に行ってたんですか。あのナルシスの湖は何を写してもとても美しく見せてくれるから、一度そこを覗いてしまうと何度も覗きたくなってしまうんですよねえ。でもそれは真実ではないのだから、いいこと? ¥ジェルちゃん! 分かっているとは思うけど、あそこに写って見えるものが本当の姿だなんて思い込んではダメですよ」
「はぁ~い」

 ヨーフル先生は本当に¥ジェルちゃんのことを心配して言ってくれているのです。でも¥ジェルちゃんは返事だけはしっかりしていますが、実際のところ、先生の言葉は右の耳から入って左の耳から外に出ていました。

「あっくん、お迎えご苦労様でしたね。さあ、じゃあお勉強を始めますよ。席に着いてちょうだい」
「はぁ~い」 
 ¥ジェルちゃんとあっくんは一緒に返事をして、それぞれの席へ着きました。 

 その日のお勉強は、人間たちの幸せと不幸せについて――でした。