魔法使いと人間
なんという事だ。魔法使いの指導者になって、人間達を従属的な立場にしてやろうと考えていた僕自身が、人間だったのだ。
このニュースは、魔法界をあっという間に駆け廻り、
改革派を落胆させると共に、融和派をホッとさせた。
一方、夢破れた僕は人間として楽しく生きる事を決意し、ジゴロになった。
あまり売れていなかったとはいえ、
なんとか48のメンバーだった母と、
そんな芸能人をも籠絡した父の甘いマスクを受け継いだ僕は、
モテモテだったのだ。
そんな僕が25歳を迎えた時、突然忘れていた連中がやってきた。
魔法省の役人達で、かなり慌てているようだった。
「あなたが関係を持った女性を全て、ここに書いて下さい」
彼らはいきなりそう切り出したのだ。
なんのことはない。
僕には引き継がれなかった魔法の能力が、
息子か娘に引き継がれたと言うのだろう。
僕は愉快になって思いだす限り、
国籍も様々な300人余りの女性の名前を書いた。
「なんてことだ。海外まで・・・これではもう防げない」
魔法省の役人達は頭を抱えてしまった。
「僕の子供達が増えてるのかい?」
僕は笑いながら尋ねたが、彼らは笑っていなかった。
「そんな生易しい事ではありません!」
聞いてみると、僕は魔法使いではないものの、
特殊な魔法ウイルスを持っていて
それに感染すると、相手の人間が魔法使いになってしまうのだという。
しかもこのウイルスは、年々感染力が強くなっていて、
今や、咳をしてもうつる可能性まで出て来たということらしかった。
元々のキャリアーである僕だけは発症しないものの、
普通の人間が次々発症しまくっているのだそうだ。
「そういや、この頃ホウキで飛んでるやつが増えたな・・・」
僕は役人を見送りながら、ボソっとつぶやいた。
僕の父、ハッシー・モットーが提唱し、
僕自身がそれを推し進めようとした改革は、
今やまったく必要のないものとなった。
なぜなら、僕以外の人間全てが、魔法使いになってしまったからだ。
「あー空が飛びてえ・・・ 」
僕はホウキに乗って飛びまわるサラリーマン達を見上げながら言った。
(おしまい)
作品名:魔法使いと人間 作家名:おやまのポンポコリン