小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

さよなら、あの夏の日

INDEX|1ページ/1ページ|

 
気づくな…

気づかないでくれ…

気にするな…

気にしないでくれ…

頼むから!!


同じ野球部員に大輔っていう、同級生がいる。
親友の。
背は俺より1cm高いし、成績は2年で一気に上がるし。
後輩に人気まである。
『野球部一番のイケメン』なら必ずあいつが該当する。
嫌いだけど、自慢の親友。


「おい、大輔~」
「何だよ?」
「何してるんだ~?」
大輔は、呆れたように話す。
「一般常識のテキストだよ…俺、就職だし」
気だるげに話しながら、問題の答えを書いていく。
日に焼けた肌は、少し赤い。
大輔のペンケースの中を出す。
そして、何枚か出てきた野球部員と撮った、プリクラ。
それを何気なく見る。
「何がしてぇんだよ、徹(とおる)」
「いや、別に…」
大輔がため息を吐く。
散乱しているシャープペンや色ペン。
消しゴムや定規とボールペンたち。
徹は、大輔のペンケースにそれを戻す。
「なぁ、大輔」
「何だよ?」
「変だよな」
笑いかける。
大輔は、顔を顰める。
「何がだよ」
徹は、窓の外を見る。
そこには、1,2年生の野球部員たち。
県大会決勝戦で敗退、後輩へと託した甲子園への夢。
徹は思い出す。

セミの鳴き声、全員で祈り願った。
一球のボールですべてが決まる瞬間。
カキーン!!

「…蝉の鳴き声と照りつける太陽の下で俺ら、闘ってたのにさ…」
徹が教室を見回す。
「今は、クーラーの効いた進路室で就職や進学の入試のために、3年野球部は猛勉強」
大輔が納得したように頷く。
そして笑う。
「確かに、な…でも、いい人生経験だろ?俺らは、2年も甲子園って大舞台を体験した」
「晴れ渡る空や響く応援の声、人々の熱気」
「一瞬でも気を抜けば、其れが命取り…だろ?」
「さっすがー!わかってるー!!」
徹が笑う。
大輔は、皮肉そうに言う。
「伊達にお前の親友をしてねぇから、な?」
徹は、ケラケラと笑う。
その時だった。
後輩の部員の男子が大輔の名前を呼ぶ。
そして、フォームについて聞いている。
徹がプリクラをペンケースに戻す。
「っじゃ、俺戻るわ」
「どこにだよ?」
「はぁ?学校での俺の居場所は、進路室以外にもあるだろうが!!それに今、放課後!!!」
「あぁ、食堂か?」
「いやいや!寮の部屋、寮の部屋!!俺の勉強ルーム!!!」
「あぁ、そっちか」
徹は呆れつつ、少し笑う。
「じゃな、イケメン君」
後ろから、少し不機嫌そうに聞こえる反抗の声が聞こえた。

「あの、徹先輩!!」
「?…どうした?」
1学期の終業式後、後輩の女子生徒に呼び止められた。
可愛いという形容詞が似合うその子は、顔を赤らめ徹に手紙を突き出してきた。
宛名には、『大輔先輩へ』。
(あぁ、みんなよく俺のところに来るなぁ~)
呑気に一世一代の告白手紙を貰った、徹はいつも通りの台詞を言う。
「名前と学年、教えてくれる?」
「あ、はい!!」
その子は、真剣だった。
羨ましい。
徹は手紙を見る。
桃色の便箋には、輝く金の星のシール。
そこに書かれた相手は、親友の名前。
すると。
「よぉ」
大輔が片手をあげて、あいさつをする。
徹も応える様に手を上げる。
徹の片手にある手紙に大輔が興味を持つ。
「何だ?…あぁ、やっとお前にも春が来たか?」
「春?…あぁ、春ちゃんのこと?」
「は?」
「お前宛の恋レターだぜ?2年生の春ちゃんって子で2-1の…」
そう話した瞬間、大輔が手紙を奪い取り封を切る。
そして、面倒臭げに徹を見る。
「ありがとよ、郵便屋」
「クーリッシュのバニラな」
「あぁ、分かったよ」
大輔が去っっていく。
何の用事だったのだろう。
いや、今は放課後。
向こうは大輔と自分のクラスの教室。
部活の準備をしていただけ。
もうすぐ、夏休み。
そして、大会。
甲子園。
徹は空を見上げる。
空は、夏の午後を象徴するように太陽を掲げていた。


徹は絶叫した。
「あんぎゃあああああああああああああああああああああ!!!」
「先輩、どうしました?…生まれたてのドラゴンのような声で…」
同室の後輩が徹の声に驚く。
徹はヤバい、ヤバいと何かを探す。
「?」
「やべー、教室に英語の復習テキスト忘れてきた……」
「?そうなんですか?」
頷く。
そして、震えだす。
「あぁ、英語の鬼と呼ばれる鬼崎が見える…」
「スパルタの鬼崎先生…今、6時ですし取りに行ったら、どうですか?」
「いいのか?だって、今日は合同練習じゃ」
「あぁ、部長が各自筋トレしてろって」
「そうなの…あれぇ、あいつ俺には何も…」
「…?…おかしいですね?」
「…まっ、いっか!!」
「えっ!!」
「では、徹英語のテキストを取ってきまーす!!!」
「あぁ、はい」
徹が去った後、後輩は宿題を再開した。

「あっつ!死ぬ、死ぬる!!」
徹は、そう言ってクーラーの効いた進路室へ入る。
「先生、いるー?」
「徹君,丁度よかった~」
進路室の女の先生が徹に鍵を渡す。
徹が目をパチクリした。
「今、大輔君がいるんだけど、寝ててねぇ…疲れてるみたいだから、しばらく寝せといてね」
「…えっ、あっ、はい…」
「じゃっ!!」
先生を見送り、徹は大輔の寝ている机に近づく。
真正面に座り、寝顔を盗み見る。
心底、気持ちよさ気だ。
夏休みに入り、県大会決勝で敗退、その後3年は引退。
それにより、3年は進路へ向け勉強を進めなければならない。
大方の3年は、勉強と後輩の指導を交代制でしている。
特に大輔は、指名が後輩から多い。
それだけ尊敬されているのだ。
「…なぁ、大輔…俺さ、好きな奴がいる…でも、そいつは問題が多すぎてさ…」
小声で話す。
「……そいつは、俺の自慢の親友でさ…お前なんだ」
聞こえない告白。

「大好きだよ、大輔…」

そう言って、大輔の頬に静かにキスをする。
徹は鍵を置いて、置手紙を書く。
そして。
「さよなら」
進路室を出て行った。


今日は、卒業式だ。
桜が生徒の門出を祝福し、そよいでいる。
野球部の部員は、涙と鼻水で濡れた顔をで別れを忍ぶ。
徹は、微笑みながらその光景を見ていた。
片手には卒業証書。
もう片手には、卒業式のおまけの紅白まんじゅう。
隣には苦笑いの大輔と大泣きの後輩がいる。
「モテモテだな~、イケメン君」
「うるせぇーよ」
二人は、噴き出す。
空は晴天。
優しい春の風が吹く。
徹は、あの夏の日の出来事を忘れない。
ずっと、胸の中にとどめるだろう。



 明日から
   大輔は社会人に
     徹は大学生に
         それぞれの夏が始まる…
             


                さよなら、あの夏の日
 


                   〈卒業〉
作品名:さよなら、あの夏の日 作家名:兎餅