キジと少年
捜査にあたった刑事が、少年に事件の様子を訊ねたが、彼は口を真一文字に引いたままひと言も言葉を発しない。どうやら事件を目撃したショックからか口が利けなくなってしまったらしかった。そのため刑事たちは、少年からの証言を諦めざるをえなかった。
少年には近しい身寄りがなく、村に唯一ある彼の遠縁の家に引き取られることとなり、両親を失ってまだ日も浅いある日、少年は住み慣れた家を離れ、村外れにあるその家へ引っ越すことになった。
引越当日の朝、少年は表から自宅を眺めながら心の中で哀願した。
「とうちゃーん、かあちゃーん。おねがいかえってきてえー」
その時、彼の言葉に呼応するようにキジの鳴き声が響いて聞こえた。
「ケーン ケェーーーン」
少年は、その声がまるで父や母の天国からの声のように感じた。
彼のこれからを心配する両親の悲痛な叫びのように――。
――勇人ーー! 負けるんやないでえー――
少年の頬にひとすじ涙が流れ、それを袖口で拭った。
「ぼく、男やもん……」
少年は父の言葉を思い出していた。
些細なことでもすぐに泣いてしまう自分に、優しかった父はいつも頭を撫でながら言った。
「勇人、そんなことぐらいで泣くんやないで。勇人は男なんやから」
そう言いながら父は、包み込むような瞳で自分を見つめ微笑んでいた。
「そうや。ぼく、男やもん」
少年はもう一度自分に言い聞かせるように繰り返した。
「勇人、ほら行くでぇー」
背後から遠縁のおじさんが勇人を呼んだ。
彼はゆっくりと振り返り、小さく頷くと、おじさんの差し出した手に自分の手を重ね、引き剥がされるような胸の痛みを覚えながらも一歩を踏み出し、村外れのその家に向かって歩き出した。