キジと少年
季節は厳しい冬に入った。
その村では、冬は猟が主な収入に繋がる仕事だった。
それは陣伍の家でも例外ではなく、畑作業のできない寒い雪の日、陣伍と芳恵は弁当を持って、何枚も服を重ね着して山へ出かけた。獲物は獲れる日もあったが、坊主の日もあった。
「キジが獲れればなあ」
陣伍が夕飯を食べながら呟いた。
「そうよねぇ、キジは高く売れるからねぇ」
芳恵が同意を示した。
その言葉を聞いて、勇人は急に不安になった。あのキジは大丈夫だろうか。
猟師は一人だけではない、大勢の鉄砲を持った人が山に入り、獲物を探している。もしかしたらそんな誰かに撃たれるかも知れない。急に不安が竜巻のように黒い渦を巻きながら勇人の胸の中に広がっていった。
「どうしよう……」
次の日、勇人は学校の帰りに神社に寄った。しかしキジはやってこなかった。
次の日も次の日も、キジには会えなかった。もしかしたら……不安がますます膨らんでいく。
それから数日後、ようやくキジに会えた。
「よかったあ! ぶじだったんだ」
嬉しさのあまり思わず声を上げてキジを抱きしめた。
「勇人、しゃべれるようになったんだな」
「うん。とうちゃんとかあちゃんとをころしたハンニンがつかまったんだよ。ぼく、けいじさんにたのまれて、そのハンニンのかおをみにいったんだ。そして、そいつのかおをみたとたんに、こえがでたんだよ」
「そうか、犯人が捕まったのか。でも、それより何よりお前の声が戻って良かった! 本当に良かった。少し安心したよ」
「あっそうだ。とうちゃん、ぼくしんぱいで……」
「うん? 何が?」
「このむらではふゆになると、やまにはいってリョウをするんだよ。うちのおじさんもそうだし、たくさんのひとが、てっぽうをもってやまにはいってる。ぼく、とうちゃんがうたれるんじゃないかとしんぱいで……」
「ああ、そのことか。確かにこのところ仲間のキジが何羽も鉄砲で撃たれたみたいだ。だが大丈夫だ。とうちゃんは絶対そんなヘマはしないから」
「ほんとうだね?」
「ああ。でもな、もしとうちゃんが撃たれることがあっても、お前は泣くんじゃないぞ。お前は強い男になるんや。お前が泣かないで頑張ってれば、きっと誰かがお前を助けてくれる。いいな、勇人。分かったか?」
「うん。わかったけど、……でも、やっぱりとうちゃんがうたれたりしたらいやだ」
「ああ、大丈夫。十分気をつけるから、安心しろ」
「とうちゃん」
勇人はキジを胸に抱き、頬擦りをした。