待たせてゴメンね♪
そう言えば、葉子と初めて会ったのは大学一年になって三ヶ月目の頃だったなぁ。山田先輩に、いきなり呼ばれて行ったサテンで紹介されて、何となく可愛い子だったから、深い意味もなく付き合うようになった。そして、わずか二度目のデートでいきなりホテルへ無理矢理連れて行って、Hしちゃったんだよなぁ。あの時、葉子は泣いてたっけ……。
俺より二つ年下だったから高校二年だった。もちろんバージンだったから、俺もちょっぴり責任感じてしまって、本当のことが言えなくなってしまったんだ。
俺には田舎に彼女がいるんだってことが……。
俺は彼女に会えなくて淋しくて、セックスもしたかったし。――それが本音だったんだけど言えないまま、その後も暫らく付き合ってたんだよなぁ。あの日までは――。
それは、俺が寮を出て、狭いワンルームのアパートを借りたばかりの頃だった。
その前日、田舎の彼女からの手紙が届いて、一通り読むと机の上に置いたまま出かけてしまった。それまでにも何度も手紙が来て、その都度、俺も返事をすぐに書いて投函していたけど、その日に限って少しだけ急いでいたので、読むだけ読んで、帰ってから返事を書くつもりで机の上に置いたままにしていたんだ。
彼女の手紙には――、
「京平、元気ですか? 毎日京平のことを想っています。仕事には随分慣れたけど、休みの日に一人でいると淋しくて、どうしても京平に会いたくなってしまいます。電話も通じないことが多いので、それもストレスかも……(笑)
近い内に一度、逢いに行っても良いですか?
京平と逢えなくなってから ようやく分ったことがあります。私は京平〔太陽〕の光を浴びているからこそ、元気に明るく育つことができる『ひまわりの花』なんです。常に京平の方だけを向いて、京平だけを見つめています。
京平からの嬉しい返事を待っています。 ひまわり娘より 」
俺は当然ながら、スケジュールを合わせて逢うつもりでいたんだ。久し振りに彼女に会えるんだから、しかし……。
俺が外出から帰ると、合鍵を渡してあった葉子が来ていた。その手には彼女からの手紙が握られている。それを目にした俺は焦り、何も言わずにその手紙を取ろうとすると、いきなり葉子が泣き出した。
「お、おい、何だよ、何で泣くんだよー?」
葉子はしゃくりあげながら、
「だって……これって……前から付き合って……いたんでしょ? ――なら、どうして私と……? なぜ…私を抱いたの?」
と、ますます泣きじゃくった。
「ごめん、本当のことが言えなかったんだ。本当はその子が好きなんだ……」
俺は俯いたまま続けた。
「――でも、ずっと逢ってなかったから淋しくってつい……。でも葉子を傷付けるつもりじゃなかったんだ。ごめん、本当にゴメンよ」
俺は謝るしかなかった。今この場で、本当はセックスがしたかったから……なんてことは、いくらなんでも言えなかった。
しばらく泣き続けたあと葉子は、意を決したように俺に言った。
「もう京平とは会わないわ、そして忘れるように努力する。京平がそんな人だとは思わなかったし、私にとっては初めての人だったから、ずうーっと好きでいたかったけど……。その手紙の人を悲しませるのは嫌だから……」
またしゃくりあげながら、続けた。
「――でもね、一つだけ言っておく。人を傷付けると、きっとその報いを受けるのよ。
いつか京平も、傷付いて知ることがあるのよ。もう二度と電話もしないでねっ!」
葉子はそれだけ言うと、泣きながら俺の部屋を飛び出して行った。
そして俺と葉子の関係はその日で終わった。