待たせてゴメンね♪
受験当日、僕は京子から手渡された、天満宮の合格祈願の御守り札を握り締めてその学校の門をくぐり、何とか無事に試験を終えた。あとは結果を待つのみだった。
その日までがとても長く感じたが、少し春めいたその日、ついに運命の日を迎えた。
京子は一緒に見に行くと言ったが、東京までは決して近い距離ではない。結果がどうあれ、必ずすぐに連絡するからと約束をして、自宅で待つようにと言い残して出掛けて来た。
僕が合格発表の会場に着くと、既にかなりの人がその時を待っていた。
殆どの人が親や友達が同伴していて、一人で来た僕はとても不安な気持ちに駆られ、 こんな事ならやっぱり、せめて母さんにでも一緒に来て貰えば良かったと思った。
――一人で大丈夫さっなんて大見得を切らなければ良かった――と後悔もした。
『しかし、僕にとっては今日は運命の日だ! 京子との将来もかかってるんだ!』
そう思い直すと、今までと打って変わって新たなファイトが湧いてきた。
京子にもらった御守り札を握り締め、ついにその時が来た!
僕は数字を目で追った。
僕の番号は……。
「あっ! あったあ!」
思わず僕は飛び上がった。その途端、なぜか勝手に涙が溢れてきた。
僕は携帯を取り出し、すぐに京子に電話した。
京子は携帯を握り締めて待っていたらしく、呼び出し音がワンコールもしない内に、「もしもし?」
と緊張した声で出た。だが後の言葉はなく、
「もしもし」
と僕が言うと、ゴクリと唾を飲む音がした。
「京子、やったよー! 合格したよー!」
と僕が言うと、張り詰めた糸が切れたように、京子は「わぁーっ」と泣き出した。
そして泣きながら「おめでとう!!」と何度も言ってくれた。「ありがとう! 京子のおかげだよ!」
僕も言ってる側から涙が溢れてきて、しばらく携帯からはお互いの泣き声だけが聞こえた。
ようやく気持ちを落ち着けた僕が、
「じゃあ、帰ったらまた連絡するから」
と言って電話を切った。
それでもきっと京子は、まだしばらくは泣くんだろうなぁと思った。
少し深呼吸をして、今度は自宅に電話を入れた。
「もしもしっ……」
母さんが素早く電話を取って、いつもより甲高い、少し上ずったような声で出た。
僕が合格を告げると、鼻をすすりながら「そう、良かったね〜」と、嬉しそうに言ってくれて、本当に安心したという風に、ほう〜っと大きな溜息をついた。
僕は母さんの声を聞くと、また涙が滲んできた。
母さんとの電話を切ると、何だかとても大きな一仕事を終えた後のような疲労感に襲われた。
その後、入学に必要な手続きをさぁ〜っと済ませ、電車に乗って帰途についた。 家に帰ると母さんがご馳走を作って待っていてくれた。
荷物を置きに、僕が二階の自分の部屋に行きドアを開けると、
「お帰り〜」
と京子が迎えてくれた。僕はとてもびっくりしたけど、すぐに事情を察して京子を思いっきり抱き締め、目茶目茶キスをした。京子が呆れるくらいに。
その後、父さんが帰って来るのを待って、僕の祝賀の食事会が、京子も含めた四人で始まった。
「本当に良く頑張ったなぁ。一発で合格するとは正直思ってなかったぞ! 父さんも鼻が高いよ」
父さんが本当に嬉しそうにニコニコ笑いながら言ってくれて、僕と京子は目を見合わせて笑った。
その時の僕にとっては、生まれてからこれまでの中で、これ以上『幸せな夕餉』はなかったかも知れない。心底そう思ったのだった。