プロポーズ歌合戦
都会の住宅地の側にある砂場とブランコしかない小さな児童公園、こんな所でもプロポーズの歌が歌われていた。
歌っているのは少し禿げかかった中年男性。相手の女性はぽっちゃりした体型で、どこにでもいるような顔立ちだった。子供っぽい顔つきがセールスポイントかもしれない。どうみても年齢差が10歳以上は違いそうだ。歌っている男より若い男性がもう一人、かなり心配そうに二人の様子を見ている。
♪ 誰にも言われず たがいに誓った
かりそめの恋なら 忘れもしようが
ああ夢では無い ただひとすじ
誰よりも誰よりも 君を愛す
こんな古い歌をどこで知ったのだろうか。女が、後を継いで歌い出した。
♪ 愛した時から 苦しみが始まる
愛された時から わかれが待っている
ああそれでもなお 命かけて
誰よりも誰よりも 君を愛す (川内康範/吉田正)
若い男がもうこれ以上我慢は出来ないというように、「やめろ!」と叫んだ。この星で、やってはいけないことの一つだった。それを分かった上でのやむにやまれぬ気持ちだったのだろう、男は下を向いて「ずうっと、小さい時からずうっと……」と、そのあとは泣き声になって言葉には聞こえなかった。
女がそれを見て、優しく声をかけた。
「ごめんね。ずうっと優しくしてくれて、ありがとう。でも、この恋は認めて欲しいの、お願いよ、お兄ちゃん」
お兄ちゃんが、頷いて、それから歌を歌い出した。切々と歌う『ハナミズキ』の歌が次第に涙声になっていった。
♪ 夏は暑すぎて
ぼくから気持ちは重すぎて
一緒に渡るには
きっと船が沈んじゃう
どうぞおゆきなさい
お先にゆきなさい
僕の我慢がいつか実を結び
果てない波がちゃんと止まりますように
君と好きな人が百年…続き…ます…よう……に
(song:一青窈)